現在、歯科衛生士の採用倍率は23.3倍ともいわれています。
様々なツールを使っても応募がこなかったり、なかなか新しいスタッフが決まらなかったりしてお困りの先生も少なくないのではないでしょうか。
そんな中「やっと採用できた!」と胸を撫で下ろしている院長先生、安心するのはまだ早いかもしれませんよ。
入社から3年ほど経ち、新人スタッフも一通り医院の仕事を身につけてくれて、落ち着いてきたと思ったところで「先生ちょっとお話が…」というような経験をしたことはありませんか?(すみません、私も心当たりがあります…)
スタッフ採用は結婚と同じように、あくまでもスタートで、長く続けていくためにはそこからが重要です。
今回は、今いるスタッフにも新しいスタッフにも「長く働きたい!」と思ってもらえる医院について、現役歯科衛生士の視点も交えながら考えていきたいと思います。
心当たりありませんか?スタッフが辞める医院の特徴
まず最初に、多くのスタッフがあげている退職理由を確認していきましょう。
ご存じの方も多いと思いますが、主な原因は「人間関係」「給与や待遇面」「やりがい」です。「やりがい」には、仕事内容や仕事量、スキルアップなども含まれると思っていただけたらと思います。
具体的には、以下にあげる項目に当てはまれば当てはまるほど、スタッフが不満を感じて離職に繋がる可能性が高いといえるでしょう。
- 院内の雰囲気が悪い、ピリピリしている
- 一人ひとりのスタッフの負担が大きい、または一部のスタッフの業務量だけ多い
- 少数精鋭で休めない
- 成果や努力が適正に評価されない
- スキルアップできる環境でない
- 教育体制が十分に整っていない
- 福利厚生や休暇制度が充実していない(社会保険未加入)
- 仕事量に対して給与が低い(残業代が出ない)
加えて結婚や育児、介護などのライフスタイルの変化による退職も多い傾向にあります。
入社して3年頃に注意!
ちなみにそこそこ多くの医院を経験してきた私の退職理由は「一人の負担が大きい・体調を崩した・自分の存在意義が見いだせなくなった・他に学びたいことがある・医院の方針と合わなくなってきた」などです。
信頼して多くの仕事を任せてくださることはとても喜ばしいのですが、気力体力がある私でも人の何倍も仕事をかかえて平気なほど超人ではありません。
ずっとフル回転で動いていたら、体調を崩しましたし(転職したらすっかり治りました!)どこに行っても通用するような衛生士になりたかった私は学ぶことにも貪欲で、何か達成すると「次はあれを身に付けたい!」と常に目標を持っていました。
一通りこなせるようになって代わり映えもなく、医院が進化していくわけでもなく、同じ日々を繰り返していると…医院の方針や方向性ともちょっとずつズレを感じ始め「私ここにいなくてもいいんじゃないかな」と思うことも…。新たな目標を掲げ、スキルアップを目指して退職することが多かったですね。
そしてそのタイミングは、まさに3〜4年!
この時期に心当たりのある先生方は、医院の存り方を見直してみるチャンスかもしれません。
スタッフが長く働きたいと思う医院とは
単純に考えれば、辞める原因とは反対の環境を整えればスタッフの定着率は変化するかもしれません。
とはいえ、待遇や給与を良くすれば満足度があがるのかというと、そんな簡単な話でもないのです。
ここではいくつかのポイントをお伝えしていきます。
《スタッフが働きやすい職場のポイント》
- 人間関係が良い
- 給与が仕事内容や量に見合っている
- 休暇が取りやすく、ライフスタイルに合わせやすい
- スキルアップできる
- やりがいを感じている
- 信頼されている、任せられている仕事がある
上記のようなことは、比較的多くの人が求めていることだと思います。
ところが、ちょっとしたすれ違いや人手不足などで、なかなか上手くいかないこともありますよね。
そのような場面でも「あるとスタッフの受け取り方が変わる」ポイントを次の項でお伝えしていきます。
現役歯科衛生士が思う長くいたい医院
多くの衛生士が重視していることは、やはり人間関係です。
先ほどあげた点に加えて、居心地の良さはとても大切だと思います。
それから、小さくてもいいので『気遣い・心遣い』があるかないかです。
私が勤務してきた医院は本当に様々で、どの医院も学びたいことや身に付けたい技術があって、自分で望んで飛び込んだ場所です。先生方にも良くしていただきました。
医院の特徴とスタッフの在籍期間について私なりに考察してみましたので、よろしければ参考になさってください。
☑️院長の熱量が高く、高いレベルを求められる。厳格な雰囲気で、常に緊張状態。
→💡技術は高いが、スタッフの入れ替わりが激しい。
☑️イベントなどのコミュニケーションの機会や、休暇の取りやすさはあれど、スタッフ間に派閥や院長のパワハラがある。
→💡多少問題はあれど、福利厚生が充実しているため、スタッフ在籍期間は5年前後とやや長め。
☑️複数のドクターが在籍しているが、方針が統一されておらず、方向性がバラバラ。
昼食は院内支給(ほぼ強制)で、自由がない。昼休みの外出不可。
→💡やる気がないスタッフが集まりやすく、在籍期間は数ヶ月〜2年程度と短い。
☑️経験の浅いスタッフに仕事を任せないため、一部のスタッフだけ激務。
→💡ベテランはそこそこ長く在籍しているが、若いスタッフや新人は2~3年で辞めていく。
☑️家族経営で人により指示が食い違うことがある。任される仕事範囲は広く、忙しい。福利厚生は比較的充実。
→💡家族間で板挟みになることも。忙しさと人間関係が理由で、スタッフの入れ替わりはやや多め。
☑️衛生士業務以外の接遇に関しても高いレベルを求められる。次から次へと新しい仕事が増えるが、スタッフの数は変わらない。
→💡スタッフの不満が大きく、院内の雰囲気は良いとはいえない。スタッフの入れ替わりが激しい。
☑️少人数制だが、非常勤で在籍するスタッフが多く、急な体調不良などでの休みも取りやすい。スキルアップは自分次第。昼食は日替わりで支給され、イベント毎にお菓子などのプレゼントがある。
→💡多少の不満はありながらも働きやすいため、長く在籍しているスタッフや出戻りスタッフが多い。実際に、ライフスタイルの変化によって働き方を変えながら20年以上在籍している衛生士も存在する。
多くを経験してきていえることは「多少肩の力が抜けることも長く続けるためには重要」だということです。
自分が経営者であれば別ですが、雇われの身でずっと緊張したまま…というのは、とても居心地がいいとはいえません。
更にちょっとした気遣いや心遣いがあるだけで、トラブルを避けられたり、スタッフが嫌な思いをしてしまう場面があっても「…仕方ないなぁ」と思えることもあるのだということも先生方には知っておいていただきたいです。以下に例をあげます。
- 「ドクター枠が空いていて衛生士のメンテナンスやクリーニングなどが続いている時に、院長が然り気無くバキュームをしにきてくれた。」
- 「新人の時、患者さんが「あの見習いみたいな子、大丈夫なの?」と受付で言った時に、院長が患者さんに聞こえるように技術力が高いことを褒めて、かばってくれた。」
- 「スタッフについてや新しく取り入れたいものに関して相談し、意見や要望などを取り入れてくれた。」
このように、自分を見てくれていたり信頼されていることがわかると安心しますし、気遣いがわかると日頃嫌なことがあったとしても多少は目を瞑れます。
人ってそういうものではないでしょうか。
スタッフが長く働きたい医院にするために大切なことは、案外、あまりお金をかけずにできることも多いかもしれませんよ。
スタッフが辞めない医院にするためにできること
給与体制の見直しや福利厚生・休暇制度を充実させること、スキルアップできる環境を用意することなど、既に実践している方も多いと思います。
では「人間関係」についてはどうでしょうか。下記のような工夫をしている医院も少なくないと思います。
・積極的にコミュニケーションを取る
・誕生会、イベントなど交流の機会を作る
・スタッフの気持ちをヒアリングする機会を設ける
ただし、コミュニケーションはただ取ればいいわけではありません。質が良いものである必要があります。
スタッフの誕生日をお祝いしている医院もありますが、形だけになっているとしたらあまり意味がありません。心がこもっているからこそ、やる意味があるのです。
スタッフとのコミュニケーションは、適度な温度感で、相手にとってちょうど良い距離を見つけて行きましょう。グイグイ行き過ぎたり、表面的なものでは逆に嫌われてしまうかもしれないのでご注意を。
最終的には、体調不良や小さなことで困った時にも何でも話せる関係性が築けることが理想です。
そうすれば、スタッフに何か変化があっても相談しやすく、長く続けていける場所になっていくはずです。
またスタッフとだけではなく、患者さんとの関係も大切です。先生が患者さんのことを本気で考えている姿や、喜びを一緒になって分かち合っている姿などを見て「先生についていこう!」と思う衛生士もたくさんいます。先生の人柄が好きだと、衛生士が長く居続けたい医院になるのではないのでしょうか。
ぜひ、そんな背中もスタッフに見せてください!
スタッフが長くいたい場所にするために意識しておきたい3つのポイント
スタッフへの対応について考える時は、次の3つの視点からも検討してみてください。
①誰しも承認欲求を持っていることを理解する
人は誰でも「認められたい」という承認欲求を持っています。
ご存じの先生も多いと思いますが、アブラハム・マズローの唱えた『マズローの5段階欲求』によると、人間の欲求は5段階で構成されているとされています。
最下層部の「生理的欲求」→「安全の欲求」→「社会的欲求」→「承認欲求」→「自己実現欲求」という順番で満たしていくことで、自己実現に至るという理論です。
スタッフが新しく入社すると、まずは「社会的欲求」を満たそうとします。医院に馴染み、医院の一員として受け入れてもらいたい、という欲求です。
これが満たされると「認めてもらいたい」という「承認欲求」に移っていきます。これがちょうど入社3年目頃ではないでしょうか。
この頃に承認欲求が満たされていないと、スタッフは退職を考え始めるかもしれません。
そのため継続して承認欲求を満たしていくことも、長くいたい医院に求められることだといえるでしょう。
②個々の能力に合った仕事を任せる
「一通りの仕事を覚えてほしい」という先生のお気持ちもわかるのですが、得意なこと不得意なことは誰にでもあります。
その中で、皆が平等でいなければならない必要はあるのでしょうか?
例えば、受付業務が苦手なスタッフがいたとします。衛生士業務も受付業務もどちらもこなすことが医院の仕事だったとしても、苦手な人の場合「時間がかかる」「ミスが多い」「受付に籠りっきりで他の仕事は他のスタッフがやらざるを得ない」という状況だったらどうでしょうか。
効率が悪いことはもちろん、周りのスタッフの負担が増え、他のスタッフの不満に繋がってしまいます。
向いていないことに多くを求め、叱る場面が増えれば、当人がやる気を失くしてしまうのも無理はありません。
否定するよりも「できたことを認める」ことや、個々の能力に見合った仕事を「任せる」ことが大切です。
それが承認欲求を満たすことにも繋がります。
得意なこと不得意なことを含めて個性を生かせるような仕事分担をし、お互いが認め合い、協力しながら診療を進めていけたら理想ですね。
先生の医院はどうでしょうか。ぜひこの機会に、一度お考えになってみてください。
③続けるためには目標を持つことが重要
新しく入社したスタッフは、最初の1~2年は仕事を覚えることに必死です。しかし、3年も経てば一通りの仕事を身に付け、余裕も出てきているのではないでしょうか。
この時期は、とても重要です。
今までは、早く医院の仕事を身に付けることが目標でしたが、それを達成すると次の目標がなくなってしまうからです。今まで集中していた目の前のこと以外にも目が向けられるようになるため、院長や職場環境などにも不満が生じやすい時期でもあります。
次の目標がないと「吸収できることは全部した」「他のこともやってみたい」と前向きに転職を考える人もいれば、「何だか最近やりがいがない」「もっと他にいい医院があるのでは」などと感じてしまう人もいるでしょう。
一度不満を感じ始めると、それはなくなることはなく、徐々に大きくなっていくものではありませんか?
常に目標があるかないかで、スタッフのモチベーションは大きく左右されるのです。
一人ひとりが目標を持ち続けられるようにフォローしていくことは、非常に重要なことだといえるでしょう。
スタッフとのコミュニケーションを深めるために
在籍しているスタッフとコミュニケーションを取る手段として、次の3つについても見直してみてください。
①ミーティング
定期的なミーティングを設けている医院もあれば、毎朝申し送りなどを兼ねてミーティングをしている医院もあるでしょう。
まず、ミーティングの時間は設けておいた方がいいと思います。ただし、ダラダラと長い時間をかければいいわけではなく、短時間で済ませましょう。
中には特にミーティングの時間は設けておらず、連絡事項はその場やグループLINEなどで共有している医院もあるようです。伝えたいことは、いいにくかったり気まずかったりすることでも、直接伝えることをおすすめします。
場合によっては、チーフなどに間に入ってもらうのも良いと思います。
意図が伝わりにくい文章でのやり取りは、誤解を生むことも少なくないため、極力控えることが望ましいでしょう。
また注意点だけではなく、一言でいいので何かを褒めてあげることも大切です。
②面談
院長と2人の面談、ぶっちゃけ私は苦手でした。言いたいことはないかと聞かれても、上司にはなかなか言えないものですよね。
もしくは面談が実質お説教の時間となっている医院もあって、その頃はまだ衛生士歴も浅かったので、毎月憂鬱な時間に…。伝えたいことがある時は緊張してドキドキしながら、勇気を振り絞って話していたことを思い出します。
話し終わった後は、もちろん心臓バクバクです!
一対一の面談で、ざっくばらんに話せる人って一体どのくらいいるのでしょうか?
ではチーフが相手だったら、と考える方もいらっしゃるかもしれませんが、私自身チーフの立場も長いこと経験してきましたが、スタッフにとってチーフはどちらかというと「院長側」の人間になると思います。
仕事中以外の時間は関係ない話で盛り上がったり、時にはちょっとおちゃらけたり、仕事中は後輩をフォローしたりしながら、そうならないように努力してきたつもりですが…。本当に悩んでいることを気軽に話してもらうということは、なかなか難しいものです。
他に外部のコンサルタントが面談をしている医院もありましたが、歯科の人間ではないことや先生の顔色を伺っている印象があったため、個人的にはあまり信用できませんでした。
結局、院内の状況を把握している自分よりも少し先輩の立場の人や、同期のスタッフが一番本音を話しやすいのではないか、とも思います。円滑な人間関係を築くためには、スタッフ全員の協力が必要なのかもしれません。
・目標を共有する
目標をスタッフに決めてもらい、共有することが大切だと思います。
院長から一方的に「~をやってほしい」と言われても、本人が「やりたい!」と思えるものでなければやる気がでなくても仕方ないですし、圧力に感じて逆効果にもなりかねません。
おおよその目標は個々のスタッフ本人に考えてもらい、その目標を話し合って具体的に行動に移せるところまで落とし込んでいく、というのはどうでしょうか。
もし任せたいことや身に付けて欲しいことがあるのであれば、ある程度の方向性や選択肢を事前に伝えておくのも良いと思います。
・必ずフィードバックをする
共有した目標に関してのフィードバックは必ず行うようにしましょう。
改善点はもちろんですが、良かった点も必ず伝えることが大切です。むしろ良かった点を多く伝え、次にブラッシュアップしてほしい点を一つ提示してみる、くらいのスモールステップの方が受け入れてもらいやすいかもしれません。
あれこれ一度にいわれると、プレッシャーが重くなり過ぎることもありますので、お気をつけください。
③マネジメントを学ぶ
特に小規模の歯科医院では、院長のマネジメント力が求められます。診療やバックオフィス業務なども行う中で、学ぶ機会を確保することはなかなか大変かもしれませんが、スタッフの安定のためにもマネジメントを学ぶことはとても重要です。
長く留まりたい医院かどうかはスタッフへの気遣いの有無でも変わります
今回は、スタッフが辞めない、長く続けやすい医院とはどのような医院なのかについてお話させていただきました。
他にも色々ポイントはあると思いますが、多くの衛生士との会話や自身の経験の中で共通している点は、条件や環境だけではなく「気持ち」だということです。
特に女性は、この部分を大切に思う傾向が高いといえるでしょう。
先生方にとって、何か少しでもヒントになることがありましたら幸いです。
スタッフが長く続かないのは、スタート時点での「採用」にそもそものあるケースも。
正しい方法で採用活動を行わなければ、応募が集まらないだけでなく、ミスマッチが原因の短期離職を生み出してしまいます。
・求人を出しても何の反応もない
・1人の退職をきっかけにバタバタと人が辞めた
・3ヶ月後にスタッフの退職が決まっている
一つでも心当たりのある院長先生、まずはこちらのページをご覧ください。