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個人経営の歯科医院が健康保険、厚生年金保険の任意適応事業所になるメリットとデメリット

開業・経営

突然ですが、先生の経営する歯科医院の従業員数は5名以上ですか?
全国の歯科医院の平均従業員数は約4.6人(厚生労働省 平成26年医療施設調査より算出)と言われています。

従業員が常時5人未満の個人経営の歯科医院は、健康保険や厚生年金保険の適用を受けなくてもよいことになっています。ですので、現時点では健康保険や厚生年金保険の適用を受けていない歯科医院も少なくありません。

しかし、健康保険や厚生年金保険が完備されていないと、求職者にとっては福利厚生が不十分と思われて求人採用において不利になりかねません。

そこで、従業員が常時5人未満の個人経営の歯科医院が健康保険や厚生年金保険に加入するためには、健康保険、厚生年金保険の任意適応事業所を選択するという方法があります。

本記事では、個人経営の歯科医院が健康保険、厚生年金保険の任意適応事業所になるメリット、デメリットや、歯科医師国保との違いなどについて解説していきます。

選択肢を増やして医院経営のヒントにしてくださいね!

歯科医院の社会保険完備とは

社会保険とは、従業員や従業員の家族が病気、ケガ、失業などに備えるための公的な保険制度のことです。

歯科医院の求人に「社会保険完備」と書いてあれば、「健康保険 」「厚生年金保険」 「雇用保険」「労災保険」の4種類の社会保険制度が完備されているということです。

この中で、雇用保険と労災保険は、労働者を1人でも雇用していれば適用事業になります。

しかし、健康保険や厚生年金保険は、従業員が常時5人未満の個人経営であれば、加入を義務付けられていません。

そのため、従業員が常時5人未満の個人経営の歯科医院は、任意で健康保険や厚生年金保険の適用事業所にならなければ、社会保険完備にはならないのです。

健康保険、厚生年金の適用事業所とは?

健康保険、厚生年金の適用事業所とは、厚生労働大臣の許可を受けることで健康保険、厚生年金の適用となった事業所のことです。

適用事業所は、

  • 適用が義務付けられている強制適用事業所
  • 任意で加入する任意強制適用事業所

の2種類に分けられます。

強制適用事業所

健康保険や厚生年金の強制適用事業所となる歯科医院は、法人の歯科医院、または従業員が常時5人以上いる個人の歯科医院です。

従業員が常時5人未満の歯科医院や、院長1人だけの歯科医院であっても、法人であれば健康保険や厚生年金の強制適用事業所になります。

任意適用事業所

強制適用事業所に当てはまらない従業員が常時5人未満の歯科医院であっても、健康保険や厚生年金の任意適用事業所になることは可能です。

任意適用事業所になる条件は、従業員の半数以上が適用事業所となることに同意して申請をして、厚生労働大臣の認可を受けることです。

導入を検討する場合、まずはスタッフにも相談してみましょう!

歯科医院で加入できる公的医療保険の種類

歯科医院で働いている従業員などが加入できる公的医療保険の種類は、

  • 協会けんぽ
  • 歯科医師国保
  • 国民健康保険

の3種類です。

ここでは、協会けんぽ、歯科医師国保、国民健康保険に加入できる条件について解説していきます。

協会けんぽ

健康保険の適用事業所である歯科医院に勤務する従業員は、協会けんぽ(全国健康保険協会)に強制加入になります。
歯科医院が健康保険の適用事業所でなければ、加入することができません。

また、個人経営の歯科医院が健康保険の適用事業所であっても、事業主とその家族は加入できません。
この場合は、事業主とその家族は国民健康保険に自分で加入することになります。

保険料は収入によって決まり、事業主と従業員で折半です。

歯科医師国保

歯科医師国保とは国民健康保険の一種で、各都道府県の歯科医師会に所属している歯科医院で勤務する従業員とその家族が加入できる医療保険制度です。

健康保険の強制適用事業所である医療法人や従業員が常時5人以上いる個人の歯科医院の従業員は、歯科医師国保には加入できません。

ただし、健康保険の強制適用事業所になる前に歯科医師国保に加入していた場合は、「健康保険被保険者適用除外承認申請書」を年金事務所に提出し承認されれば、継続加入できます。

歯科医師国保は、業主とその家族も加入できます。
保険料は、収入にかかわらず一律で加入者の全額負担です。

国民健康保険

勤務している歯科医院が、協会けんぽ(健康保険)や歯科医師国保に加入していない場合には、歯科医師国保以外の国民健康保険に加入することになります。

この場合は、従業員が自分で都道府県および市町村の国民健康保険に加入しなければなりません。

保険料は収入によって決まり、加入者の全額負担です。

歯科医院で加入できる公的年金の種類

歯科医院で働いている従業員などが加入できる公的年金の種類は、

  • 厚生年金保険
  • 国民年金

の2種類です。

ここでは、厚生年金保険、国民年金に加入できる条件などについて解説していきます。

厚生年金保険

厚生年金保険の適用事業所である歯科医院に勤務する従業員は、厚生年金保険に強制加入になります。
歯科医院が厚生年金保険の適用事業所でなければ、加入することができません。
また、個人経営の歯科医院が厚生年金保険の適用事業所であっても、事業主は加入できません。

この場合は、事業主は国民年金のみの加入になります。
厚生年金保険の被保険者は、自動的に国民年金の被保険者になります

保険料は収入によって決まり、事業主と従業員で折半です。

国民年金

国民年金は、日本に住んでいる20歳から60歳までの方が加入しなければならない公的年金です。

勤務している歯科医院が、厚生年金保険に加入していない場合には、自分で保険料を支払う必要があります。

保険料は、収入にかかわらず一律で加入者の全額負担です。

歯科医院が健康保険、厚生年金保険の任意適応事業所を選択するメリットデメリット

従業員が常時5人未満の個人経営の歯科医院は、健康保険、厚生年金保険の強制適応事業所ではないため、加入する必要はありません。

しかし、社会保険完備と求人広告に記載するためには、健康保険、厚生年金保険の任意適応事業所になる申請が必要です。

ここでは、歯科医院が健康保険、厚生年金保険の任意適応事業所を選択するメリット、デメリットについて解説していきます。

任意適応事業所を選択するメリット

歯科医院が健康保険、厚生年金保険の任意適応事業所を選択することで、従業員は健康保険、厚生年金保険の被保険者になります。

厚生年金保険の被保険者になるということは、従業員にとって将来受給できる年金額が増えることになります。

また、従業員が健康保険の被保険者になることで、歯科医師国保やその他の国民健康保険よりも充実した給付が受けられるのです。

健康保険料や厚生年金保険料は歯科医師と折半で支払いますので、従業員にとっては保険料の負担を抑えながら充実した給付を受けられることはメリットになります。

歯科医院にとっても、健康保険、厚生年金保険の完備により、福利厚生の充実がアピールできることがメリットです。

任意適応事業所を選択するデメリット

歯科医院が健康保険、厚生年金保険の任意適応事業所を選択することは、歯科医院にとっても、従業員にとっても保険料を支払わなければなりません。

保険料の支払いが増えることは、支出が増えることになりますのでデメリットにもなります。

健康保険と歯科医師国保との違い

歯科医院が健康保険、厚生年金保険の任意適応事業所になるのか、または歯科医師国保のままでいるのかを選択するには、健康保険と歯科医師国保との違いを知っておく必要があります。

ここでは、健康保険(協会けんぽ)と歯科医師国保と比較して働くスタッフのメリット、デメリットについて解説していきます。

健康保険と歯科医師国保と比較して働くスタッフのメリット

以下は、歯科医師が健康保険を選択した場合の働くスタッフのメリットは以下の通りです。

  • 被扶養者の概念があること
  • 保険料が安くなるケースがあること
  • 給付が手厚いこと
  • 勤務先で治療を受けても保険請求できること

被扶養者の概念があること

健康保険には扶養の概念があり、被保険者に生計を維持されている一定条件を満たした家族は被扶養者となります。

被扶養者は保険料を支払うことなく、一定の給付が受けられます。

一方、歯科医師国保は扶養の概念がないため世帯人数分の保険料が発生するのです。

家族の大黒柱として働くスタッフや、シングルマザーで子どもがいる場合などは、一定条件を満たせば家族や子どもが被扶養者になります。

シングルマザーを積極的に雇用したいと考えている先生は、健康保険への加入を検討してみてはいかがでしょうか。

保険料が安くなるケースがあること

収入や被扶養者の有無にもよりますが、被扶養者がいる場合などは、歯科医師国保よりも保険料が安くなるケースがあります。

また、歯科医院と従業員が折半で保険料を支払うため、歯科医師国保よりも保険料が安くなるケースがあるのです。

既存スタッフのライフステージを想像しながら導入を検討するのもありだニャン

給付が手厚いこと

協会けんぽの被保険者は、歯科医師国保よりも一般的に手厚い給付を受けられることが特徴です。

例えば、傷病手当金、出産手当金などの給付は、歯科医師国保の組合によっては無いところもあります。

勤務先で治療を受けても保険請求できること

歯科医師国保の場合、従業員自身の歯科医院で治療を受けた時は保険請求ができないため、全額自己負担になります。

しかし、協会けんぽの場合は、従業員自身の歯科医院で治療を受けた時でも保険請求ができるため、自己負担は3割になるのです。

健康保険と歯科医師国保と比較して働くスタッフのデメリット

以下は、歯科医院が健康保険を選択した場合の働くスタッフのデメリットは以下の通りです。

  • 保険料が高くなるケースがあること
  • 福利厚生が歯科医師国保と比較して充実していないものがあること

保険料が高くなるケースがあること

健康保険料は収入によって保険料が変わりますが、歯科医師国保は収入にかかわらず保険料が一律です。

そのため、歯科医師国保よりも保険料が高くなる可能性があります。

参考:協会けんぽ令和6年度保険料額表(令和6年3月分から)

福利厚生が歯科医師国保と比較して充実していないものがあること

歯科医師国保の組合によっては、協会けんぽには無いインフルエンザの予防接種の補助や、がん健診、歯科健診などの福利厚生があります。

歯科医院が健康保険、厚生年金保険の任意適応事業所になるための手続き

任意適用事業所になるための申請は、健康保険、厚生年金保険のどちらか一つの制度のみ行うことも可能です。

任意適用事業所になるための申請手続きは、従業員の半数以上の同意後に、日本年金機構の事務センター、または管轄の年金事務所に「健康保険・厚生年金保険 任意適用申請書」を提出します。

また、添付書類として従業員の2分の1以上の同意を得たことの証明書である「任意適用同意書」が必要です。

詳しくは顧問の社会保険労務士に相談してみてくださいね!

まとめ

このように、個人経営の歯科医院が健康保険、厚生年金保険の任意適応事業所になるには、様々なメリットがあります。

中でも社会保険が完備されることで、福利厚生が充実して求人も有利になります。

任意適応事業所になり社会保険完備の歯科医院になった場合は、メリットをしっかり求職者へアピールすることも忘れずに行ってください。

せっかく整えた福利厚生もアピールしなければ宝の持ち腐れニャン。

でも、どうやってアピールするかわからない、、、
募集要項に「社会保険完備」と記載してもなかなか歯科衛生士からの応募につながらない、、、
とお悩みの先生は「歯科衛生士から応募が集まる求人の作り方」のセミナーにご参加ください。

きっと先生の医院をアピールするベストな方法を見つけることができますよ。

♦︎この記事の監修者

監修者 道坂まや先生

♢ 小島 章彦 (こじま あきひこ)

社会保険労務士
信用金庫に8年、システム開発の会社に現在まで20年以上勤務。
社会保険労務士・行政書士の資格を保有し、人事労務関係、社会保険関係の記事を中心に7年以上執筆活動を続けている。最近では、労務関係の記事の監修作業も行っている。

2001年 社会保険労務士資格取得
2002年 行政書士資格取得
2017年~ 社会保険労務士や行政書士の資格を生かして法律系webライターとして、社会保険、労務関係、その他の法律などを中心に執筆活動をしている。
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