スタッフにはそれぞれ個性があり、また患者様も同様です。様々な方と接する中で、患者様からのクレームが生じてしまうこともあるでしょう。歯科衛生士がクレームを受けた場合「スタッフに問題があるのでは」と思うこともあるかもしれません。
患者様からのクレームの原因は、一体どこにあるのでしょうか。今回は、クレームの原因とその対処法について解説していきます。
歯科衛生士がクレームを受けやすいのはどんな時?
まず、どのような時に歯科衛生士へのクレームが起きているのか確認していきましょう。
ケース1:新人歯科衛生士の場合
学校で学び、実習や国家試験を経て歯科衛生士になったとはいえ、まだまだこれから吸収する時期です。
やっとスタートラインに立ったところだといっても良いかもしれません。
技術力不足はもちろん、自信のなさなどから患者様に不安を与えてしまい、クレームが生じやすい状況です。
この時期は医院の診療の進め方や診療内容を覚えて身に付けるために、いっぱいいっぱいでもあります。診療が忙しかったり、院長や先輩スタッフに頼りづらい雰囲気があると、上手くできないことがあっても声をかけられなかったり、助けを求めて良いタイミングがわからなかったりしがちです。
クレームが生じないよう、周りの人たちがフォローしてあげましょう。
ケース2:スケーリング中に痛みを感じた場合
スケーリングは歯科衛生士にとって日常的な業務のひとつですが、患者様にとっては敏感な体験です。
先生もご存知の通り、歯茎が炎症を起こしていたり、歯石が多く付着していたりする場合、痛みを感じることが少なくありません。こうした痛みに対し、患者様が「もっと優しくしてほしい」「痛いのに何も言ってくれない」と感じると、クレームに発展する可能性があります。
スケーリングのスキルレベルや手技に関しては、衛生士によって「癖」が大きく異なります。
担当歯科衛生士制を導入している歯科医院の場合、担当が変わった時には特にクレームが発生しやすいといえます。
きちんと引き継ぎをしたり、患者様との相性なども考慮する必要があるでしょう。
技術力だけがクレームの原因ではない
前項でお伝えしたように、まず技術力に問題がある時にはクレームが生じやすいといえます。しかし、クレームの原因となるのはそれだけではありません。次のような場合にもクレームが生じることがあります。
ケース3:態度や言葉遣いなど、患者様への対応に問題がある場合
会話や説明・施術をする時の態度はもちろん「エプロンやタオルのかけ方が雑」という所作もクレームに繋がることがあります。このような小さなことでも雑に対応されると、他のことも雑なのでは?と不安に感じてしまうことがあるのではないでしょうか。
いちど不信感を抱いてしまうと、その他のちょっとした動作にも不安を覚えたり、悪く捉えてしまうものです。
特に、忙しい時ほど患者様に寄り添った対応を意識し、感謝や丁寧な言葉遣いを心がけましょう。
例えば、『お時間いただきありがとうございます』や『ご不安なことがあれば何でもお聞きください』といった小さな一言が、信頼を取り戻すきっかけになります。
細かい部分ですが、患者様に与える印象に大きく関係してくるため注意しましょう。
ケース4:痛みの生じやすい口腔内である場合
例えば「知覚過敏がある」「歯肉の炎症が強い」など技術力に問題がなくても痛みを感じるケースも珍しくありません。私達にとっては当たり前のことですが、歯科知識のない患者様にとっては原因がわからず「痛い=下手」という発想になってしまいがちです。
もし痛みを感じそうな部位があるなら、事前に患者様に伝えてから処置を進めるようにしましょう。途中で声をかけて痛みがないかどうか確認し、気にかけることも大切です。
ケース5:予約時間に遅れてしまった場合
予約時間を守れないと、患者の不満が高まる原因になります。
特に忙しい患者にとっては、時間通りに診療が進むことが信頼の証とされます。
一般的なクリニックであれば、前の患者様次第で1〜2時間以上待つこともあるものの、「そんなものだ」と思われがちです。しかし、歯科の場合はメンテナンス目的での通院が多いこともあり、どちらかというとサービス業に近い印象を持つ人もいます。
そのため、「こちらは予約時間通りに来たのに、どうして待たせられるんだ」とクレームを入れられてしまうこともあるでしょう。
診療時間の見積もりを正確に行ったり治療時間が前後しても良いような仕組みを作り、予約の管理を徹底しましょう。

クレームを受けた時はどう対応する?
歯科衛生士がクレームを受けた時、院長としてどう対応していますか。覚えておいていただきたいのは、その時にどう感じるかは「日頃その歯科衛生士に対してどう感じているか」によって左右されるということです。
あまり良い印象がないのであれば「やっぱり」と思うでしょうし、反対に良い印象を持っているのであれば「患者様がクレーマー?」と考えるかもしれません。
このことを忘れずに、院長として公平な判断をするように心がけてください。
クレームを言う患者様のタイプにもよるかもしれませんが、本人が対応するよりも院長が対応した方が事態は早く、そして丸く収まる可能性が高いでしょう。
次に、患者様と歯科衛生士それぞれに対して、どう対応すれば上手く収まるのか解説していきます。

患者様への対応
- 患者様の話をしっかり聞く
上手く伝わっていなかったことなどがあると、色々と説明したくなるかもしれませんが、まずは患者様の言い分をただ聞くことが大切です。
この段階で反論や言い訳をすると、さらに不満が膨らむ可能性があります。
思っていることを口に出したら、案外スッキリとしてしまった経験はありませんか?患者様の感情が高ぶっている時に、言葉を発するのは逆効果です。言い訳をしていると取られて、更に怒りが増してしまう可能性もあります。
まずは患者様の気持ちが落ち着くように、話を聞きましょう。院長が受け止めてくれることで、納得される方もいらっしゃいます。
- きちんと謝罪をする
医療という分野では「謝罪=ミスを認める」ということになることから、あえて謝罪をしないようにしている方もいるかもしれません。
間違っていないことに対して謝罪をする必要はありませんが、患者様に不快・不安な思いをさせてしまったことは事実です。まずは患者様の気持ちや言い分を受け止め、それについてはきちんと謝罪をするようにしましょう。
患者様が通院しているということは、医院や院長に好意があるということです。
そこで院長が対応することにより、スムーズに解決に至る可能性も大きいでしょう。
- 問題点を明確にして、解決策を提示する
このような状況になったとき、「気持ちを伝えて、相手から謝罪をもらえればOK」という人と、「謝罪は要らないが今後どうするかの見解が欲しい」という人の2パターンが存在します。
そのため、謝罪と解決策の提示はセットで行いましょう。
問題点を改めて共有した上で、具体的な解決策を提案します。
スケーリングの技術が問題なのであれば、研修を行なったり、担当者を変えるなどの対応が考えられます。また、コミュニケーションに問題がある場合は、院内で共有してルールを決めるなどの策も良いでしょう。
『今回の診療費用については一部返金をさせていただきます』などの対応で気を治めてもらえることもありますが、逆に「その場しのぎの対応」と見なされることがあるため、再発防止策をきちんと提示することが重要です。
受付スタッフの対応
現場で起こるクレームの大半は、患者さんがその場でクレームを言うのではなく、帰り際に受付でクレームを発することがほとんど。その場合、クレームの一時対応をするのは受付スタッフです。
この一時対応でその後の展開は大きく変わることもあるので、受付スタッフには十分にクレーム対応の技術を取得してもらう必要があるでしょう。
よくある対応としては
「あのスタッフ、クレーム受けること多いんですよね、違う人に変えますね」などと患者さんに寄り添いすぎてしまい、その衛生士を悪く言ってしまうパターンです。
患者さんは満足してもらえるかもしれませんが、医院のスタッフ教育においてはマイナスになってしまいますよね。
「スタッフ育成の参考とさせていただきます。今後はこのような事の無いように精進してまいりますが、別の担当に変えさせていただいた方がよろしいでしょうか?」などと一言添えていただくと、クレームを受けた衛生士にも改善し挽回できるチャンスに繋がるのではないでしょうか。
医院でクレームを共有する際に、一時クレーム対策で謝罪に回ってくれた受付スタッフに感謝の気持ちを伝えてあげられるといいですね。
院長からスタッフへの対応
患者様への対応の他に、歯科衛生士へのフォローも必要です。
歯科衛生士自身に心当たりがあったり、態度に問題がある場合などはもちろん本人が反省すべきです。しかし、故意にではなく生じたクレームもあるのではないでしょうか。
クレームを受けた歯科衛生士の心境
クレームを受けて嬉しく思う人はいません。原因が思い当たる場合は、反省する気持ちが生じるかもしれませんが、そうではない場合「歯科衛生士は向いてないのではないか」と自信を失くしてしまうこともあります。
そのまま何のフォローもしないでいると、新たなミスや退職に繋がったり、モチベーション低下の原因にもなりかねないため注意が必要です。
院長の一言には大きな意味がある
歯科衛生士へのフォローは、先輩が行えば十分だと思うかもしれませんが「院長から気にかけてもらえている」ということに大きな意味があります。
努力している点をまず認め、その後どう対応すれば良かったのかを本人と話し合いましょう。
歯科衛生士としてだけではなく、社会人や人としても成長していけるように指導してあげてください。
診療に忙しい日々の中では、こうしたことに時間を割くのは面倒に感じる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、このような小さな心遣いはスタッフとの信頼関係を深めるためにも役立ちます。ぜひ一声かけてあげていただきたいと思います。
先輩衛生士への対応
クレームを受けた後輩に寄り添って考えてくれる先輩衛生士さんがほとんどではありますが、中には「私には関係ありません。私はそのようには教えていません」というようになってしまう衛生士も少なからずいらっしゃいます。
人数の少ない職場だと特に、後輩が育って何でもできるようになると自分の仕事がなくなるような気がしてしまって、いつまでも後輩には「できない存在」でいてほしいと願ってしまうものです。
そうした中で、ベテラン衛生士さんに面倒な患者を一気に担当してもらったり、後輩衛生士さんへのクレームが中々減らなかったり、という現状に悩んでいらっしゃる医院もあるかと思います。
正しい人事評価制度を導入し、先輩には先輩の役割や仕事がある事を認識する事で、後輩が育つ事が先輩の評価につながるシステムを作ることも大事なのではないでしょうか。

患者様からの信頼を得るために必要なポイント
クレームを受けた歯科衛生士に対して、どのように指導をしたら良いか悩んでしまうことがあるかもしれません。ここでは患者様から信頼される、クレームが生じない歯科衛生士のポイントについてお伝えいたします。指導する際の参考にしてください。
①患者様に寄り添った指導ができる
例えば、同じところがいつも磨けていない患者様もいると思います。このようなケースでは、毎回同じようなことを指導していたのでは、患者様はやる気がなくなったり来院することが嫌になってしまうこともあります。
良かれと思ってしていることかもしれませんが、ただ理想を押し付けているだけでは患者様を変えていくことは難しいでしょう。
患者様のライフスタイルも性格も様々です。それぞれの患者様の背景を聞き出し、できる方法を一緒見つけてサポートしていける歯科衛生士は患者様から信頼されます。
②様々な経験を積んでいる
経験を積んだ歯科衛生士は、技術力も高い傾向にあります。もちろん、それまでに何をやってきたかにもよりますが、技術力を向上させるためには多くの経験を積むことが欠かせません。
経験というと「経験年数」が大事なように思えますが、実際に重要となるのは「どのような経験を、どのくらい積んでいるか?」ということではないでしょうか。
仕事を任せる時は、つい信頼している歯科衛生士にばかり頼みがちになるかもしれません。安心して任せることができますが、それでは全体の歯科衛生士の技術力を向上させることは難しいと思われます。
勉強会や講習会を通して学ぶことはもちろんですが、それを臨床でアウトプットし実践することで初めて身になるのではないでしょうか。
先輩歯科衛生士の協力を得ながら、新しい技術の習得や実践の機会を設けるなど、経験の浅い歯科衛生士が経験を積めるような環境作りを心がけてみてください。
③小さな点にも気遣いができる
こまめに声かけをする、痛みや不安な気持ちなどを察して対応するなど、歯科衛生士だからこそできる気遣いもあると思います。
人は自分のことを良く見ていてくれたり、気が付いてくれる人には安心するものです。日頃から信頼関係の築けている歯科衛生士は、クレームを言われにくいでしょう。
④自信のある対応ができる
自分が何かのサービスを受ける際にもいえることですが、自信がなさそうな人にしてもらいたいと思うことはほぼないと思います。自信のある堂々とした対応をしてくれる人にしてもらいたいと思うのではないでしょうか。患者様も同様です。
とはいえ、自信は経験に比例する面もあります。仕事ができていても、なかなか自信を持てない歯科衛生士もいるものです。上司として、適度に声をかけたり褒めたりすることで、歯科衛生士が自信を持てるようにフォローしていきましょう。
このように、患者様から信頼される歯科衛生士にはポイントがあります。本人が努力することはもちろん大前提ですが、正しい方向に努力ができるよう導いてあげることも院長の役目ではないでしょうか。
自主性を大事にしつつ、サポートすることは歯科衛生士が成長する上で非常に大切です。
クレームを出さないためにできる5つのこと
歯科業界に限らずいえることですが、以前と比べてクレームを言う人は増えている傾向があります。何の問題もない対応をしていても、それ以上を求めてクレームを言う人もいます。また相性が良くなかったり、イライラしている時に感情的に当たってくる人もいるかもしれません。
ここでは、クレームをできるだけ生じさせないためにできるポイントをいくつかあげていきます。
- 患者様の状態を事前に把握し、歯科衛生士の相性を考慮する
- 担当する歯科衛生士が変わる場合は、歯科衛生士間の技術力の差を考慮する
- しみたり痛みが生じそうな場合は、予めその可能性があることを伝えておく
- 日頃から患者様とのコミュニケーションを十分に取るようにする
- 余裕の持てるアポイントを取るよう心がける
- 患者様からのフィードバックを活用する
4つ目までのポイントは、クレームの原因のところから既にお分かりいただけていると思いますが、5つ目のポイントはいかがでしょうか。人件費などの固定費や売上をあげることを考えると、余裕を持ってアポイントを入れることは難しく感じる方もいらっしゃると思います。
しかしよく考えてみてください。スタッフが余裕を持てないアポイントは、患者様からのクレームの発生率を高める可能性が高くなります。
例えば、次から次へと予約が詰まっていると焦ってしまい雑になってしまう瞬間があったり、伝えるべきことを忘れてしまうようなことはありませんか。
患者様の小さな変化や違和感を見逃してしまうこともあるのではないでしょうか。こうしたクレームに繋がりやすい状況を作ることは、長い目で考えると医院の損失にもなり得ます。

クレームには上手に対応して歯科医院の士気を高めよう
今回は、患者様から歯科衛生士にクレームが起こる原因とその対処法について解説しました。クレームの原因は、歯科衛生士に技術力がないことだけではなく、他にもたくさんあります。下手だからクレームになるとは限らないのです。
ほとんどの原因は日頃から備えておくことで防げる可能性が高いため、ぜひこの機会にクレームに繋がる要因がないかどうか見直してみましょう。それでも生じてしまった場合には、今回お伝えした対応や対策を参考にしてみてください。
クレームを「危機」ととらえるか、「好機」ととらえるかで医院の未来が変わると思います。
院長先生には、ぜひ前向きに取り組む姿勢で、スタッフを引っ張っていただけたらと思います。
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♦︎この記事の監修歯科衛生士

♢ 道坂まや (みちさか まや)
フリーランス歯科衛生士
アパレル会社、市役所勤務、ホテルラウンジと様々な業種での社会経験経て、マナー、メンタルヘルスを学ぶ。
シングルマザーで子育てをしながら、歯科助手として働いた事がきっかけで歯科衛生士を目指す。
2013年 | 歯科衛生士国家資格取得 |
---|---|
2013年〜 | チェアサイドでの臨床と訪問歯科に携わる。 経験が認められてからは社員30名のなかでチーフに任命され、 新卒歯科衛生士、実習生、歯科助手などを中心に技術、マナー、メンタルヘルス、訪問歯科では在宅、特別養護施設、有料介護施設あわせて100名以上を担当。 各施設で訪問歯科、口腔ケアについてセミナーを行い、介護スタッフへ口腔ケアの指導も行う。 チェアサイドでは自費のPMTCを導入。顧客は約120名獲得。 |
2021年〜 | マイクロスコープを使用したメインテナンスを開始。日本顕微鏡歯科学会に所属。 |
2022年〜 | MRC、MFT開始。舌癒着症学会認定資格取得。訪問歯科、高齢者歯科、MFTのセミナーを行う。 |
♦︎過去に実施した研修内容
- ・医療人としてのマナー講座
- ・メンタルヘルス(組織で働くという事)
- ・DH技術系(SC、SRP、アシスタントワーク)
- ・在宅と施設の口腔ケア
- ・口腔ケアの必要性
- ・高齢者歯科(チェアサイド、訪問歯科)
- ・MFTについて