一般企業と同じように、就業規則や業務マニュアルなどを設けている歯科医院は少なくないでしょう。経営者の立場からすると、スタッフ全員に医院で定めたルールを守って欲しいものです。
とはいえ「あの人はルールを守らない」と感じることもあるのではないでしょうか。今回はスタッフがルールを守らない理由と、ルールを守らせるためのポイントをお伝えします。
ルールが必要な理由
まず前提として、なぜルールを設けているのか、一度立ち止まって考えてみてください。
スタッフはもちろん、人はそれぞれ異なる価値観や考え方を持っています。自分にとっては当たり前で言うまでもないことでも、他人にとってはそうでないことも多いものです。
むしろ、自分とは全く別の考え方をしていると思って接した方が良いかもしれません。
そのため歯科医院に在籍する全てのスタッフが「共通の認識を持つ」ためにルールが必要になるのです。ルールがあることで、認識のずれを小さく抑えることができるようになります。
スタッフがルールを守らない時に見直すべきこと
スタッフが「ルールを守らない」と感じる時には、まずその理由を考えてみましょう。
ルールを理解しているのにも関わらず守らない場合もありますが、そもそもスタッフにルールがきちんと伝わっていないという可能性もあります。
なぜ?スタッフがルールを守らない理由
ルールが守られない時、スタッフ自身に原因がある場合とルールを設定している歯科医院側に原因がある場合があります。次に、ルールを守らない理由として考えられる6つの原因をあげていきます。
1.スタッフがルールを知らない・理解していないから
そもそもルールを知らなかったり、こちらの意図通りに理解できていないということもあります。
2.スタッフが自分は特別だと思っているから
例えば長く在籍しているスタッフなどの場合「今まで何とかなっていた」などと感じ、新しいルールや途中から変わったルールを受け入れられないこともあるかもしれません。
3.ルールを守る必要性をスタッフが感じていないから
何のためにルールが必要なのかわかっていないと、守らなければいけないとわかっていても守りにくくなるものです。
4.スタッフが実行しにくいルールになっているから
理解できるルールでも、医院の状況によって実行が難しいこともあります。もっと良くしようと思うと、ついあれこれルールを作りたくなってしまいますが、スタッフが無理なく実行できるルールでなければ守ってもらえません。
5.医院とスタッフの間に信頼関係が築けていないから
ルールが二転三転したり、ルールを設ける側が信頼されていない状況の場合、スタッフに「ルールを守ろう」とは思ってもらえないでしょう。
また、採用時に嘘があった状態で雇ったスタッフはルールを守らない傾向にあります。そもそも医院側が約束を破っていた場合、あえてルールを守らないようにするスタッフもいます。
思い当たるものはありますか?このうちの1〜3は、スタッフ側の原因になりますが、4・5は経営者サイド次第で改善が見込めるものです。
次の項では、ルールに関して見直してみるべきことをお伝えいたします。
そもそも、正しくルール設定できていますか?
ルールを「正しく設定する」とは、そもそもどういうことでしょうか。
ここで1つの例をあげて考えてみましょう。
例えば「消毒室はきれいに保ちましょう」というルールがあるとします。
当たり前のルールだと感じるかもしれませんが、この「きれい」の定義は人によって異なるものです。
具体的に「何をどのようにするのか」がわからないと、スタッフそれぞれ対応の仕方に違いが生じてしまいます。また、あるスタッフはきれいにしているつもりでも、他のスタッフから見たら「きれいではない=ルールを守っていない」と認識されるかもしれません。
このような認識の違いは、経営者サイドだけではなくスタッフ間の人間関係にも影響を及ぼす可能性があるため注意が必要です。
他にもアポイントが詰まっている時や急患来院時には、一時的にきれいに片付けることが難しいこともあるでしょう。その場合、上記のようなルール設定だと守ることができませんよね。
そのため「始業時と終業時には、消毒室に器具器材が出ていない状態にする」「終業時には、印象材などの汚れが残っていたり水で濡れたまま放置したりしない」など、いつ・何を・どのような状態にするのか、具体的に示す必要があります。
スタッフの誰が聞いてもわかりやすく、明確に内容が伝わるように、守りやすいルール設定をすることが大切です。
守れるルールと守れないルールがある
ルールには、誰もが守れるルールとそうではないルールがあります。
就業時の服装や身だしなみといった就業規則は理解していれば誰でも守れるものですが、個々の能力が関係するようなルールは守れない人も出てきます。
もし今、守られていないルールがあるとしたら、それはどちらに当てはまりますか?
ぜひ一度見直してみてください。
ルールを守らないスタッフがいる時の7つの対処法
わかりやすくルールを設けているつもりでも、守らないスタッフがいる場合は困ってしまいますよね。では、そのような時はどう対処したら良いのでしょうか。ここでは7つの対処法をご紹介していきます。
1.全体ミーティングでルールの再確認をする
ルールが正確に周知されているか確認するとともに、改めてルールを話しましょう。繰り返し伝えることで、スタッフの理解を得られるとともにルールを浸透させることができます。
また、院長が一方的に話をするのではなく、スタッフが主体となり「どうすれば全員が達成できるようになるか」を話し合う、そんなミーティングが望ましいです。
2.何のためにそのルールを設けているのか、目的を伝える
何のためのルールで、守ることによって何が得られるのかまで伝えていますか?
ルールそのものだけでは自分ごとと捉えるのは難しいかもしれません。ルールの目的まで理解してもらうことで、ルールを守る意味がわかり、スタッフみんなが同じ方向に向かえるようになります。
3.守れるような内容になっているかルールを見直す
スタッフが守れるルールになっているか、また現状に適しているか確認します。そもそも現場に合っていないルールでは「守れるわけがない」「守らない方が上手く回る」など思われても仕方がないかもしれません。
ルールは定期的に見直し、必要に応じて変えることも検討してみてくださいね。
4.ルールについてスタッフが思っていることを聞いてみる
ルールに関して、スタッフ目線での率直な意見を聞いてみましょう。現実的に実行できるものなのか、無理なルールを設定してないか知ることができます。ルールについて一緒に検討したり提案を募ってみるのも、スタッフが実行しやすくなるため良いかもしれません。
5.ルールを守ってもらえた場合のご褒美制を設ける
ルールが守られなかった場合のペナルティを課すのではなく、守ってもらえた時のチーム全体へのご褒美制を設けましょう。例えば、皆で美味しいものを食べに行くなどです。
こうすることで、ルールを守ることに対してのモチベーションが上がるだけでなく、積極的にコミュニケーションの取れるチームになっていけると考えます。
6.スタッフとのコミュニケーションは積極的に取る
日頃から好意的な関係がスタッフとの間に築けていれば、自然とルールは守られるものです。コミュニケーション不足はすれ違いや誤解の原因にもなりかねません。普段からスタッフとのコミュニケーションはしっかり取るように心がけ、信頼関係を築いておきましょう。
7. ルールの順守は評価する
評価制度の中に、ルールについての項目を作るのも良いでしょう。努力したことをきちんと認めてもらえると感じられると、引き続きルールを守ろうという思いがスタッフにも生まれやすくなります。その際は、主観的ではなく客観的な評価制度であることも大切です。
どう指導する?ルールを守らないスタッフへの関わり方
原因や対策がわかったところで、次に行わなければならないのは「スタッフへの指導」です。これがまた難しいと感じる方も少なくないのではないでしょうか。
ルールを守らないことに対してただでさえストレスを感じているのに、指導しなければならないとなるとより煩わしく感じてしまうものです。できればしたくない、と思う人がほとんどだと思います。
そこでついイライラした感情を出してしまったり、叱責してしまったりしがちになってしまうのではないでしょうか。しかし「ルールを守らせたい」と思っている場合に、それは逆効果です。
では、どうしたら良いのでしょうか。
《スタッフを指導する時のポイント》
- 先輩スタッフやリーダーに話をしてもうらう
- ルールを守らないスタッフの言い分を聞く
- 感情的になったり当たってしまった心当たりがあるなら、きちんと謝罪する
- 1度言えばできると思わない
本人と個別で話をしたいところですが、信頼関係が築けていない場合には注意が必要です。
院長と2人きりの面談だと、セクハラ・パワハラの問題に発展しやすいためです。
また、そもそもルールを守らないスタッフは院長や医院に対して不満を持っていることが多いため、個別に話したとろで意見を言わなかったり、ここぞとばかりに不満をぶつけられてしまうことが多いでしょう。
本人と仲の良い先輩やリーダーに話をしてもらう方が、本人にとっても素直に意見しやすいのでおすすめです。
話を聞く際は、まずはスタッフがルールを守らない理由を聞いてみましょう。話し合いの場を設けて初めてわかることがあるかもしれません。
この時のポイントは、感情的にならず冷静に話し合うことです。
感情的になってしまうと相手も感情的になりやすく、それがきっかけとなり退職に繋がる可能性もゼロではないので気を付けましょう。
相手の言い分を否定せずに聞いた上で「ルールを守ってほしい理由」や「ルールを守らないことでどのような影響があるのか」を伝え、スタッフの納得を得られるように話してみてください。
また、きつい言い方や態度をしてしまった心当たりがあるなら、そのことについては先に一言謝罪するようにしましょう。
スタッフがルールを守らなかった時の対応について不満を感じていて、一方的にルールを守るように言っても、それは全く響きません。しかし予め謝罪の言葉があれば、受け入れやすい気持ちになるものではないでしょうか。
雇用関係にあるとしても、人と人との関係作りで大事なことは変わりません。この点も忘れないようにしましょう。
そして、もう一つポイントがあります。それは「一度指導しただけではすぐにはできない可能性が高い」と心得ておくことです。
指導したのにできないと「伝えたはずなのに、何でできないのだろう」と不満や不信感を抱いてしまいがちではないでしょうか。
しかし人が今まで習慣になっていなかったことを習慣にするまでには、どうしても時間が必要です。
やる気がなくてできないのか、それともやる気はあるが身に付いていないだけなのか、そこはしっかり見極めるようにしてください。この見極めを間違えると、スタッフのやる気を削いでしまうかもしれませんので気を付けましょう。
ちなみにスタッフの退職理由の中で「人間関係」は大きな割合を占めています。できるだけスタッフには長く働いてもらいたいとお考えの先生は少なくないと思います。
ルールはもちろん大切ですが、せっかく採用したスタッフと良い関係が築けるように努力することも大切にしてください。良い関係性を作ることが、結果としてルールを守らせる近道にもなるでしょう。
ルール作りのポイントと注意点
医院独自のルールを設ける場合には、以下の点に注意しましょう。何をいつどうするのか、誰が見てもわかるような内容にしておくことで、スタッフも守りやすくなります。
- スタッフの中でルールが習慣化されるまでには時間が必要だと心得て、何回も繰り返し伝える。
- ルールの内容だけではなく、そのルールを守ることによって何が達成できるのか、目的が理解できるように話す。
- ルールは作って終わりではなく、定期的に見直すことが必要である。
- ペナルティが厳しすぎると、スタッフが萎縮してしまい能力を発揮できなくなってしまう可能性があるため注意する。
- ルールを守ることが目的にならないようにする。
おすすめは「スタッフにルールを作ってもらう」こと
院長としてルールを管理することももちろん重要ですが、ルールはスタッフに作ってもらう方が守られやすいです。
院長がルールを作ってそれをスタッフに守らせる、というトップダウン形式だと、院長と意見が合わないスタッフは辞めるしかなくなってしまうからです。
また、ルールについてのミーティングを行う際にも、『どうすれば全員が達成できるようになるか』とスタッフが自発的に話しあう、そんなミーティングが望ましいです。
まとめ
今回は、スタッフがルール守らない理由とルールを守らせるための対策について解説しました。思い当たることがありましたら、ぜひ参考にしてください。
自分と価値観が異なる人との付き合い方は決して簡単ではありません。スタッフ一人ひとりも違う人間ですから、従業員の数が多ければ多いほど、管理するのはさらに大変になることでしょう。
特にマンパワーが足りていない医院さんほど、ルールが曖昧で守られない傾向にあります。
ルールのあり方を見直すのと同時に、人材確保についても見直す必要があるかもしれませんね。
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♦︎この記事の監修歯科衛生士
♢ 道坂まや (みちさか まや)
フリーランス歯科衛生士
アパレル会社、市役所勤務、ホテルラウンジと様々な業種での社会経験経て、マナー、メンタルヘルスを学ぶ。
シングルマザーで子育てをしながら、歯科助手として働いた事がきっかけで歯科衛生士を目指す。
2013年 | 歯科衛生士国家資格取得 |
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2013年〜 | チェアサイドでの臨床と訪問歯科に携わる。 経験が認められてからは社員30名のなかでチーフに任命され、 新卒歯科衛生士、実習生、歯科助手などを中心に技術、マナー、メンタルヘルス、訪問歯科では在宅、特別養護施設、有料介護施設あわせて100名以上を担当。 各施設で訪問歯科、口腔ケアについてセミナーを行い、介護スタッフへ口腔ケアの指導も行う。 チェアサイドでは自費のPMTCを導入。顧客は約120名獲得。 |
2021年〜 | マイクロスコープを使用したメインテナンスを開始。日本顕微鏡歯科学会に所属。 |
2022年〜 | MRC、MFT開始。舌癒着症学会認定資格取得。訪問歯科、高齢者歯科、MFTのセミナーを行う。 |
♦︎過去に実施した研修内容
- ・医療人としてのマナー講座
- ・メンタルヘルス(組織で働くという事)
- ・DH技術系(SC、SRP、アシスタントワーク)
- ・在宅と施設の口腔ケア
- ・口腔ケアの必要性
- ・高齢者歯科(チェアサイド、訪問歯科)
- ・MFTについて