歯科医院の開業において、バランスの良いスタッフ配置は経営の運命を左右する大事な要素。
診療の質を保ちながら効率的な運営を続けていくためには、診療科目や医院規模に合わせたちょうど良いスタッフ数を見極めなければなりません。
この記事では、歯科医院を開業する時のスタッフ構成について、具体的なデータと実例を交えながら解説します。
歯科医院のスタッフ構成を考えるための基本とは?
日々の医院運営において、スタッフ配置は診療サービスの質と経営効率にダイレクトに影響するとても大切な要素。
診療科目、想定される患者さんの数、そして各スタッフの生産性を総合的に見ていくことで、もっとも効率的な人員配置が見えてくるでしょう。
これより先では、それぞれの観点から詳しく解説していきます。
診療科目とスタッフの関係
医院の診療科目によって、必要になるスタッフの専門性や人数は大きく変わってきます。
一般歯科のみを扱う医院と、矯正や口腔外科などの専門的な治療を行う医院では、求められるスタッフの資格やスキルセットが異なります。
例えば、一般歯科の場合は歯科衛生士と歯科助手・受付スタッフ等を中心とした構成で運営していくことが可能です。
一方で、矯正歯科を主力とする場合は、矯正治療の経験が豊富な歯科衛生士や、専門的な知識を持つ受付スタッフが必要となります。また、インプラント治療を行う場合は、手術室での補助経験がある歯科衛生士の採用が不可欠です。
専門治療の経験を持つ歯科衛生士は、一般歯科と比べて必然的に少なくなります。
また、歯科衛生士自身の「専門分野の経験ばかりが積み上がっていき、不安を感じる」という思いから、潰しのきく一般歯科に転職するケースもよく見られます。
想定患者数と必要なスタッフ数の目安
1日あたりの想定患者数は、必要なスタッフ数を決めるために欠かせない指標です。
一般的な目安として、以下のような計算方法が用いられます。
1日の想定患者数 | 必要な歯科衛生士数 | 必要な受付スタッフ数 | 必要な歯科助手数 |
---|---|---|---|
20名以下 | 1-2名 | 1名 | 1名 |
21-40名 | 2-3名 | 1-2名 | 1-2名 |
41-60名 | 3-4名 | 2名 | 2-3名 |
61名以上 | 4名以上 | 2-3名 | 3名以上 |
この数字はあくまでも目安なので、診療内容や診療時間、予約システムを導入しているかどうかによって調整が必要です。
スタッフ一人当たりの生産性を考える
スタッフ一人当たりの生産性も、歯科医院の収益に直接影響を与えます。
「生産性を計算に入れる」と言われると複雑な計算をするように感じられますが、基本的には以下のように時間ベースでの検討が行われます。
- 診療アシストにかかる時間
- 患者あたりの対応時間
- 準備・片付けにかかる時間
- 事務作業に必要な時間
一般的な目安として、歯科衛生士一人当たりの1日の診療アシスト可能件数は8〜10件程度とされています。これを基準に、必要なスタッフ数を算出してみましょう。
開業時の歯科医院における最適なスタッフ人数
開業時のスタッフ構成は、ユニット台数や診療内容によって大きく変わってきます。
ここでは、医院規模に合わせたスタッフ配置について解説し、とくに専門的な診療を行うときの考え方についても触れていきます。
小規模歯科医院(1~2ユニット)の場合
小規模歯科医院では、最小限のスタッフ数で運営されているケースが多く、なんと開業時は院長ひとりでスタートしたという声も。
開業時は患者数やコストなどが予測しづらいため、実際に運営をしながら人員を補充していく選択をとる院長もいるようです。
職種 | 人数 | 主な業務内容 |
---|---|---|
歯科医師 | 1名 | 診療全般 |
歯科衛生士 | 1-2名 | 診療補助、予防処置 |
受付・歯科助手 | 1名 | 受付業務、診療準備 |
この規模では、1人のスタッフが複数の役割を担当することが必然的に多くなります。
特に受付と歯科助手は兼務してもらうことで、人件費を抑えながら効率的な運営が可能となります。
中規模歯科医院(3~4ユニット)の場合
中規模の歯科医院では、より専門的な分業体制をつくることが可能です。
職種 | 人数 | 主な業務内容 |
---|---|---|
歯科医師 | 1-2名 | 診療全般 |
歯科衛生士 | 2-3名 | 診療補助、予防処置 |
受付 | 1名 | 受付業務、会計 |
歯科助手 | 2名 | 診療準備、片付け |
この規模では、各スタッフが専門的な業務に集中できる体制を整えることで、診療の質と効率をアップさせることができます。
専門性の高い診療科目を扱う場合の注意点
専門性の高い診療科目を扱う場合は、一般歯科とは異なるスタッフ配置が必要です。
- 矯正歯科…矯正歯科の経験をもつ歯科衛生士が必要
- インプラント…手術室担当の専門スタッフが必要
- 小児歯科…子どもの対応に長けたスタッフ、もしくは保育士が必要
このような専門分野では、経験豊富なスタッフの確保が必須です。
さらに、経験やスキルに伴って人件費も高くなることを念頭に置いておく必要があります。
スタッフの人件費を最適化する方法
スタッフの人件費は歯科医院の運命を左右する大きな要因となります。
いちどスタッフを雇用してしまうと、正当な理由がない限り簡単には解雇できないのはすでにご存知でしょう。
また、給与の基準が定まっていないことがスタッフの不満のタネとなり、院内の人間関係に悪影響を与えてしまうこともあります。
人手の確保と給与設定は、慎重に検討することをおすすめします。
近隣の歯科医院の相場を調査したり、給与の額に対する根拠を用意しておくことで、院長自身の迷いと院内トラブルを避けられます。
反対に、人件費をきちんと管理することができれば、質の高いサービス提供と持続的な医院運営を実現することが可能となるでしょう。
人件費の相場と適切な配分
歯科医院における人件費の適正な配分について、職種別の給与相場をご紹介します。
職種 | 経験年数 | 月給の相場(万円) |
---|---|---|
歯科衛生士 | 新卒 | 22-25 |
歯科衛生士 | 3-5年 | 25-30 |
歯科衛生士 | 5年以上 | 30-35 |
受付 | 新卒 | 18-20 |
受付 | 3年以上 | 20-25 |
歯科助手 | 新卒 | 17-19 |
歯科助手 | 3年以上 | 19-23 |
上記の給与水準は地域や医院の規模によって変動することがありますので、一般的な目安として参考にしてみてください。
スタッフのスキルアップによる生産性向上
スタッフの生産性を向上させることで、人件費を最適化させることもできます。
- 定期的な研修の実施
- 外部セミナーの受講サポート
- 資格取得に対する支援
- OJTプログラムの充実
- 業務マニュアルやシステムの整備
とくに、開業時は院長のタスクが山積みになってしまいます。
そんななかで教育制度を整えていくのはとても骨の折れる仕事。しかし、教育によってスタッフ一人当たりの生産性を高めることができれば、結果として人件費の効率化(=医院経営の余裕)につながります。
効率的なタスク管理と業務分担
業務の効率化を図るためには、タスク管理と業務の分担が不可欠です。
具体的には…
- アポイント管理システムの導入
- 業務の優先順位付け
- 歯科衛生士・歯科助手間の適切な役割分担
- 無駄な業務の見直し・削減
医院運営が軌道に乗るころに見直しを行うと効果的。
限られたスタッフ数で最大限の効果を上げられる体制を目指しましょう。
歯科医院スタッフの採用と教育
優秀なスタッフを採用して育成できれば、医院の長期的な成功に大きな影響を与えてくれます。
ここでは、効果を発揮する採用戦略と教育システムの構築について解説していきます。
効果的な求人方法と面接のポイント
もはや採用に困っていない方がめずらしいと言えるほど、衛生士不足が極まっている今。
この状況でも採用を成功させるためには、以下のような細かいポイントすべてに注意を払う必要があります。
- 求人媒体の選びかた/歯科専門の求人サイトの活用
- 求人票の作成/医院の特徴や待遇を明確にアピール
- 自院での採用サイト作成/求人媒体に以上の情報量で他院と差別化
- 面接での確認事項/技術力、コミュニケーション能力、チームワーク
- 採用条件の設定/給与、勤務時間、福利厚生の明確化
特に面接時には、以下の点を掘り下げて確認することをおすすめします。
確認項目 | 具体的な確認ポイント |
---|---|
技術力 | 経験年数、得意分野、資格 |
コミュニケーション | 患者対応経験、チーム内での役割 |
向上心 | 自己啓発の取り組み、キャリアプラン |
人間性 | 価値観、仕事への姿勢 |
新人スタッフの育成計画とOJTの重要性
新人スタッフの教育は、段階的なプログラムで実施すると効果的です。
一律で進めていくのではなく個人の習熟度に合わせることで、スタッフに不安を抱かせることなく着実に技術を身につけることができます。
基本研修(1週間)
- 医院の理念と方針
- 基本的な業務フロー
- 安全管理と感染対策
実地研修(1ヶ月)
- 先輩スタッフとのペア研修
- 基本的な診療補助
- 患者対応の基礎
実践期(3ヶ月)
- 独立した業務遂行
- 定期的なフィードバック
- スキルアップ目標の設定
スタッフの定着率を高めるための取り組み
スタッフの定着率向上のためには、コミュニケーションに対する不安を抱かせないようにしたり、将来像を明確に示してあげることが重要です。
- キャリアパスの明確化
- 働きやすい環境づくり
- 適切な評価とフィードバック
- チーム内のコミュニケーション促進
- 福利厚生の充実
特に重要なのは、スタッフ一人一人の成長を支援する体制を整えることです。定期的な面談や研修機会を設けることにより、スタッフの不満解消と定着率を高めることができます。
まとめ:歯科医院の成功は適切なスタッフ人数から
歯科医院の開業時における適切なスタッフ配置は、経営の成功を大きく左右します。
多角的な面からスタッフ構成を検討し、より利益率の高い体制をつくっていきましょう!
- 診療規模に応じた適切なスタッフ数の設定
- 専門性を考慮した人材の確保
- 効率的な業務分担と人件費の最適化
- 計画的な採用と教育体制の構築
- 働きやすい環境づくりによる定着率の向上