多くの院長先生は「スタッフにはできるだけ長く続けてもらいたい」とお考えだと思います。スタッフがなかなか辞めず、定着する理由は様々だと思いますが、その一つとして「やりがいが感じられるかどうか」という点も重要です。
歯科衛生士を対象にデンタルサポート株式会社が2023年に行った「働き方やキャリアに対する意識調査」※では、満足度を感じる理由の上位に「人間関係」や「やりがい」があげられています。
今回は、現役で歯科衛生士として働く私の経験も踏まえ、歯科衛生士のやりがいや定着に繋がることについて考えていきたいと思います。
※参考:歯科衛生士対象「働き方やキャリアに対する意識調査」ーデンタルサポート株式会社
歯科衛生士がやりがいを感じる時とは
歯科衛生士として何にやりがいを感じるかは、個々によって異なります。今まで勤務してきた職場にもよりますし、どのような先輩や仲間と出会ってきたかによっても違うでしょう。
可能であれば、スタッフ一人ひとりが「何をやりがいと思うのか」ぜひ聞いてみていただきたいと思います。
多くの歯科衛生士がやりがいとしてあげる項目は共通しており、次のようなものです。
- 健康に貢献できる
- 専門性が高く国家資格である
- 感謝されることが多い
- 自分次第でキャリアアップができる
- 患者さんに寄り添い信頼を得ることができる
誰かの役に立ちたい、喜んでもらいたい、笑顔でいてくれたら嬉しい、そんな想いを持っている衛生士は多いと感じます。
そのために勉強したい、という人も少なくありません。ぜひ先生方にはそういった面でもサポートしていただけたらと思います。
20年以上続けてきたからこそのやりがい
ここで私個人のやりがいについても少しお話をさせていただきたいと思います。
私は20年以上歯科衛生士として色々な歯科医院に勤務してきました。現在はフリーランスとして複数の医院で主に衛生士業務に携わりながら、歯科専門ライターとしてもお仕事をお受けしております。
今、歯科衛生士としてやりがいを感じることは、患者さんを「自分で健康を守れるようになるところまで導けること」に変わりました。
健康であるための気づきや考え方、そして行動は、口腔内だけではなく他のことにも共通することで、人生にも大きく影響するものだと考えているからです。
「○○さんは、もうどこに行っても、どの衛生士がみても大丈夫」と思えるくらい患者さんを行動変容させられた時は、本当に本当に衛生士をしていて良かったと思います。
いつか直接関わることができなくなっても、お口の健康を守りながら幸せに過ごしていってくれたら嬉しいです。
行動変容の難しさとやりがい
たくさんの方と接してきて思うことが「行動変容」させることの難しさです。
これがなければ人は変わらないと思います。
いくら「ここが磨けていません」「こうやって磨いてくださいね」といわれても、できないものはできません。
人間なので、当たり前だと思うのです。「面倒臭い」「わかってるけどできない」それでいいと思っています。
ただ、それではお口の健康を守っていくことはできません。
いかに気づかせるか、どうやって伝えるか。
どうしたら自分で自分のお口を守らなきゃと感じさせて、行動を起こさせらることができるのか。
私に何ができるか。もっとできることはないか。
私は常にこれを考えています。
そしたらやることはつきないんですよね。
新しい知識や技術を取り入れることも、新しい機器や材料・分野に関心を持つことも、視野を広くもつことも。
1つのことを突き詰めていくことは、とても素晴らしいことだと思いますが、同じ業界にいるとどうしても視野がせまくなってしまいがちです。そのため、歯科従事者と患者さんの感覚や見方は同じではないことを念頭に置き、色々な話を聞いてなるべくたくさん相手のことを知ろうと努めています。
一人ひとりの背景や性格などを無視して正論だけ伝えても、なかなか伝わらず口腔内も良くならないので…。
また相手の価値観を認めて、自分の価値観を押し付けないことも意識しています。
患者さんが本音を話しやすいようにネガティブな気持ちもまずは認め、その上で伝わる言葉を選ぶこと。
それが患者さんに伝えるためには大切なことだと思います。
このように試行錯誤したり時には落ち込んだり悩んだりもしながらスキルを磨き、患者さんがキラキラした目をしている様子や、見違えるほどキレイになった口腔内を見られた時は、衛生士を続けて来て本当に良かったと感じます。
施術することで口腔内を良くすることや知識を伝えることはもちろんですが、気がついて行動を起こし、自分で考えて健康を守れるようになるところまでいけるようサポートすること。
これができてこそ、歯科衛生士なのではないかなと今は思っているからです。
やりがいは変わるもの
やりがいは、経験を重ねるにつれて変化するものではないでしょうか。
できることが増え、色々な経験をして、歯科衛生士としてだけではなく人としても成長しているはずです。
私も衛生士になって数年は「感謝された時」「患者さんの喜んでいる姿が見られた時」「学んだことが府に落ちた、生かせたと感じられた時」「先生や誰かの役に立てた時」にやりがいを感じていました。
しかし、いつからかそれらは大前提になり、言うまでもないことになりました。
現在は、歯科医院も先生方のお陰で結婚や出産をしても復帰しやすい環境になってきています。
自分にその気があれば、ずっと学び続けてスキルを磨いていくことも可能です。
私はあいにく良い先輩には恵まれなかったので、先生や患者さんに教わったり見守られたりしながらたくさん悩んで今にたどり着きました。
もし新卒の時や中堅の立場になった頃に目指す方向を見せてくれる先輩がいたら、どんなに良かっただろうとも思うこともあります。医院によって衛生士の業務内容は違いますが、時には「こんなやりがいもある」ということを伝えられる場面があっても良いのかもしれません。
今後、衛生士一人ひとりが無理なくステップアップしながらやりがいを感じられる環境が、もっともっと増えていくことを願います。
スタッフにやりがいを感じさせるには?
素晴らしいスタッフに恵まれている先生もいれば、残念ながらそうではない先生方もいらっしゃるでしょう。
私自身、色々な衛生士に出会ったり、教育したりする中で「あらら…」と思うことや「もっと勉強して…」と感じることも少なくはありませんでした。
先生からスタッフについて相談されたりすることもありました。
先生にもお考えがあると思いますが、許せる範囲である程度は任せること。そして適度に褒めること。
これに尽きると思います。
褒められて嬉しいのは大人も同じ
これは患者さんと関わっていてもすごく感じることなのですが「褒めて伸ばす」というのは大人も子供も一緒ではないでしょうか。
私は今、未就学児を持つ母ですが、子供を持ってから本当にそうだと思うようになりました。
「大人だから、〜でなくてはいけない」なんてことはないと思うのです。
つい流してしまいそうなことや大したことのないことでも、気がついてくれている、見てくれていることに喜びを感じるのは大人も同じです。こうしたことの積み重ねは、きっと先生への信頼感ややりがいにも繋がると思います。
ある程度任せることも大事
スタッフに任せるということを、難しく感じる先生も少なくないと思います。
失敗したらフォローしなきゃいけないし、トラブルが生じる可能性もあるし、最終的に責任を負うのは自分だし…自分でやった方が早い…というような気持ちもお察しします。
スタッフを育てることは、子育てと同じだと思ってみてください。
最初は失敗しても当たり前。チャレンジさせなければ、いつまでもできませんし、スキルも上がりません。
「仕事はできて欲しいけど、失敗はされたくない。思うように動いてほしい」などと思ってはいませんか?
あれこれ干渉して支配下におこうとすると顔色を伺いはじめて受動的になり、能動的には動けなくなってしまうのです。
お手伝いを頼まれて、嬉しそうにやる気を出してやり遂げてくれる子供のように、何かを任される、頼られるということは、大人になっても嬉しいことのはずです。
少しだけ信じてあげて、もし何かあってもフォローのできる範囲で、何かを任せてみてはいかがでしょうか。
結果としてスタッフのモチベーション向上に繋げ、やりがいを感じるひとつにすることも可能だと思います。
とはいえ言うのは簡単ですが、実践するとなるとなかなか難しいですよね。私も特に子育てにおいて日々感じておりますが、努力することと意識することは忘れないようにしています。
スタッフが定着するやりがいのある職場とは
今回は歯科衛生士のやりがいについて、私のことも交えながらお話させていただきました。
歯科衛生士のやりがいとして、多くの方があげるのは冒頭で紹介したようなものです。
しかし深掘りしてみれば、同じことをあげていたとしても、一人ひとり想いは違うかもしれません。
まず先生方が「個々の衛生士が何を考え、何をやりがいとしているのか」を知ることが大切だと思います。
それがわかれば、どんな対応をしてあげたらいいのか、何ができたらやる気を引き出せるのかなどといったヒントを得られる可能性があるのではないでしょうか。
毎日の診療でお忙しいことは承知ですが、コミュニケーションを取れる機会は、ぜひ積極的に作ってください。やはり人間なので、ちょっとしたモヤモヤでも積み重なることで不満やすれ違いの原因となってしまうことがあります。(実体験済みです)
やりがいについても共有し、日頃から適度にコミュニケーションを取ることで、より良好な関係を築いていけるように心がけたいものです。
スタッフの声を聞くことは、定着に限らず「採用」の際にも必要なこと。
スタッフの考えを知ることで、自院スタッフが「何を求め、何を大切にしているのか」という欲求傾向が分かります。
もしも自己成長欲求が強いスタッフが長く働き続けてくれているのであれば、それは「スキルアップのための制度や体制が充実している」という医院の強みの現れではないでしょうか。
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