歯科医師として働いている方も、これから歯科医師を目指す方も、「歯科医師って何歳まで働けるんだろう?」と疑問に思ったことはありませんか?
一般的なサラリーマンなら65歳で定年退職というイメージがありますが、歯科医師の場合はちょっと事情が違います。実は、歯科医師には明確な定年がないんです。でも、だからといって永遠に働き続けられるわけでもありません。
この記事では、歯科医師の引退年齢について、開業医と勤務医それぞれの実情から、最新のテクノロジーがもたらす可能性まで、幅広く解説していきます。
そもそも歯科医師に定年ってあるの?
歯科医師免許は、一度取得すれば生涯有効な国家資格です。
運転免許のような更新制度もありません。
つまり、法律上は何歳になっても歯科医師として診療を続けることができるんです。
サラリーマンの場合、会社の就業規則で定年が決められていますが、歯科医師の場合は事情が異なります。
開業医なら自分で引退時期を決められますし、勤務医でも医院によって定年の有無や年齢が様々です。
「生涯現役」という言葉をよく聞きますが、現実的には視力の低下、手先の震え、体力の衰えなど、年齢とともに診療に影響が出てくることは避けられません。
最近は、AIやデジタル技術の進歩により、これらの問題をカバーできるようになってきました!
データで見る歯科医師の年齢事情
厚生労働省の「医師・歯科医師・薬剤師統計」(令和4年)によると、日本の歯科医師でいちばん多いのは50代で、全体の約3割を占めています。次に多いのが40代、そして60代と続きます。
さらに、70歳以上の歯科医師も1割以上いて、今もなお現場で診療を続けていらっしゃる先生がたくさんいるんです。
こうした年齢の分布から見ると、平均年齢ははっきりとは出ていませんが、おおよそ50歳前後と考えられます。
歯学部は6年制で、卒業後には臨床研修もあるため、実際に仕事を始めるのはだいたい25歳ごろ。それから長く仕事を続ける方が多いので、全体として年齢層が高めになるのも自然なことと言えます。
特に70歳を超えても診療を続けている先生方は、開業医として地域に根づいた診療を長年続けてこられた方が多く、地元の患者さんからも「昔からの先生」として頼られている存在です。
年齢を重ねても現役で働いていらっしゃる姿は、まさに頼もしい限りですね。
働き方によって変わる「何歳まで働けるか」問題
ひと口に歯科医師と言っても、どのような働き方を選択してきたかでリタイアの形も変わってきます。
開業医の場合
開業医は自分が経営者なので、誰かに「もう定年です」と言われることがありません。
これはメリットでもありデメリットでもあり、自由に決められる反面、いつ辞めるべきか悩む先生も多いんです。
データを見ると、開業医の多くは70~75歳で引退を決めています。
この年齢になると体力的にフルタイムの診療がきつくなったり、後継者への引き継ぎを考える時期になったりします。
一方で、80歳を超えても元気に診療を続ける先生もいます。
こういった先生は診療時間を短縮したり、得意分野に特化したりと、年齢に応じた働き方の工夫をしています。
勤務医の場合
勤務医の場合、勤務先の規定によって定年が決まります。
最近は65歳定年が多いですが、歯科医師不足の地域では70歳まで延長するケースも増えています。
60歳を過ぎてから転職なんてできるの?
と思うかもしれませんが、実は需要は結構あるんです。
経験豊富なベテラン歯科医師を求める医院や訪問診療に力を入れている医院では、人生経験豊富な歯科医師が重宝されます。
定年後は非常勤として週2~3日だけ働くという選択肢も人気です。
訪問歯科という選択肢
訪問歯科は、患者さんの自宅や施設に出向いて診療を行うスタイルです。
1日の診療件数が少なく、主に義歯調整や口腔ケアが中心で複雑な治療が少ないため、体力的な負担が軽減されます。
実際、60代から訪問歯科に転向して、70代後半まで活躍している先生も多くいます。

4. 歯科医師が「そろそろ引退かな」と考える瞬間
歯科治療は0.1mmの精度が求められる細かい作業の連続です。
多くの先生が引退を意識し始めるのは、
最近、治療で細かい部分が見えにくくなった
長時間の治療で手が震えることがある
と感じる瞬間です。
また、歯科医師の仕事は前かがみの姿勢を長時間維持することによる肩こりや腰痛など、想像以上に体力を使います。
50代後半から60代になると、「夕方になると疲れが取れない」という声をよく聞きます。
「自分の技術で患者さんに最高の治療を提供できているか?」という問いかけは、真面目な先生ほど重く受け止めます。
そして現実的な話として、年金受給額や貯蓄を確認して「もう大丈夫」と思えたときに、引退を決断する先生が多いです。
AI時代がもたらす新しい可能性―テクノロジーで延びる現役期間
最近さまざまな場所で目にする「AI」も、歯科医師の引退時期に影響を与える可能性が出てきました。
AI診断支援の威力
AIによる診断支援システムは、歯科医師の「第二の目」として機能します。
パノラマX線写真を撮影すると、AIが自動的にむし歯、歯周病、根尖病巣、顎骨内の嚢胞などを検出してマーキングしてくれます。
驚くべきは、その処理速度。
従来、歯科医師がX線写真を読影するのに平均2分かかっていたものが、AIならわずか0.018秒で分析完了。処理速度は人間の約6000倍で、しかも人間が見落としがちな初期病変も検出してくれるんです。
出典:エックス線画像を用いた歯科健診サービスについて | 医療法人社団 葵会 AOI国際病院のプレスリリース
年齢による衰えをカバーする最新ツール
最新のデジタルマイクロスコープは最大80倍まで拡大可能で、4K画質により細部まで鮮明に映し出します。
音声入力システムを使えば、キーボードやペンに持ち帰る必要もなくカルテに記録され、入力の煩わしさから解放されます。
さらに、診療ユニットも進化し、自動で最適な高さや角度に調整されるため、無理な姿勢で診療する必要がなくなりました。
引退前にこれだけは確認しておきたい5つのこと
スムーズな引退のためには、事前の準備が欠かせません。
まず後継者問題。事業承継には最低でも3~5年の準備期間が必要です。
最近は歯科医院のM&Aも増えており、後継者を探す手間が省け、まとまった売却益も得られます。
次に借金の返済計画。
開業時の設備投資ローンや医療機器のリース残高を確認し、完済までの計画を立てましょう。
閉院には原状回復費用や医療廃棄物の処理費用など、意外とお金がかかることも忘れずに。
スタッフへの配慮も大切です。
退職金の準備(勤続10年で給与の3~6ヶ月分が相場)や、再就職支援として推薦状の作成や知り合いの医院への紹介も考えましょう。
患者さんの引き継ぎは、引退の1年前から告知を開始し、症状や性格に合った医院を個別に紹介します。
カルテは法律で5年間の保管義務があるので、デジタル化しておくとスムーズです。
最後に、閉院時には診療所廃止届を10日以内に提出するなど、各種手続きも忘れずに。
医療機器は専門業者に処分を依頼しましょう。

歯科医師と歯科衛生士の年齢に関する疑問を解決
「高齢の歯科衛生士さんをあまり見かけない」という声をよく聞きます。
確かに60代以上の歯科衛生士さんは少ないですね。
これは、20代後半~30代で結婚・出産を機に退職する方が多く、復職のハードルが高いことが主な理由です。
でも最近は、パートタイムでの柔軟な勤務や訪問歯科での活躍など、働きやすい環境が整ってきています。
実際、50代、60代でも活躍している歯科衛生士さんは増えています。
歯科医師は開業していれば自分で引退時期を決められ、70代でも現役が珍しくありません。
一方、歯科衛生士は雇用される立場なので定年(多くは60~65歳)がありますが、どちらも経験を活かせる仕事なので、働き方次第で長く活躍できます。
年代別:歯科医師のキャリアプランを考えてみよう
40代は歯科医師人生の大きな分岐点です。
開業するなら体力・気力が充実している今がチャンス。
勤務医を続けるなら、専門性を高めてスペシャリストを目指すか、分院長などの管理職を目指すか、方向性を決める時期です。
50代になったら具体的な引退準備を始めましょう。
退職金の積み立て、年金受給額のシミュレーション、後継者探しなど、10年後を見据えた準備が重要です。
60代は働き方を柔軟に変えていく時期。
診療時間を短縮したり、得意分野に特化したり、訪問診療への転向も選択肢の一つです。
70代以降も現役を続ける場合は、健康第一で。
体調に合わせた勤務スケジュールを組み、無理のない範囲で社会貢献を続けましょう。
歯科医師のセカンドキャリアと引退後の選択肢
完全引退ではなく、週2~3日のペースで働く非常勤も人気です。
また、若手歯科医師の技術指導や歯科衛生士学校の講師など、経験を活かした教育活動も充実しています。
思い切って完全リタイアを選び、ゴルフや旅行、芸術活動などの趣味に没頭する先生も。
医療相談員やコンサルタントとして、診療とは違った形で医療に貢献する道もあります。

海外の歯科医師はどうしてるの?
アメリカの歯科医師の平均年齢は約49歳で日本より4歳若く、平均引退年齢は約69歳です。
アメリカでは開業のハードルが高く、グループプラクティスが主流で、引退後は診療所を売却する文化があります。
ヨーロッパではワークライフバランスを重視する文化があるものの、法定退職年齢の引き上げや経済的要因により、実際の退職年齢は65歳以上が一般的となっています。
アジアでは国によって事情が異なり、各国の医療制度や文化によって引退年齢にも違いが出ています。
まとめ:自分らしい引退を考えよう
理想的な引退時期は人それぞれです。
患者さんに最高の治療を提供できているか、自分の健康とやりがいを維持できているか、これらのバランスを考えて自分なりの答えを見つけましょう。
早めの準備により、後継者育成や患者さんへの引き継ぎ、経済的な準備も計画的に進められます。
理想は引退の5年前から準備を始めること。
歯科医師の引退に「正解」はありません。
80歳まで現役を続ける人も、60歳で第二の人生を楽しむ人も、それぞれが正解です。
大切なのは、自分の価値観に基づいて納得のいく選択をすることです。
テクノロジーの進歩により、高齢でも現役を続けやすくなった今、歯科医師の引退年齢はますます多様化していくでしょう。
自分らしい歯科医師人生の締めくくり方を、じっくり考えてみてはいかがでしょうか。