人件費率とは
人件費率は、歯科医院の経営状態を測る重要な指標の一つです。この数値を正しく理解し活用することで、持続可能な医院運営と適切な給与設計が可能になります。人件費の適正化は、利益確保と人材定着の両立に不可欠な要素といえます。
人件費率の定義と重要性
人件費率とは、売上高に対する人件費の割合を示す経営指標です。この数値は医院の収益構造を把握する上で非常に重要な役割を果たします。歯科医院における適正な人件費率は一般的に40〜45%と言われていますが、医院の規模や地域性、診療内容によって異なることがあります。
人件費率が高すぎると、他の経費や設備投資に回す資金が不足し、長期的な医院の成長が阻害される恐れがあります。一方で低すぎる場合は、スタッフの給与水準が業界平均を下回り、優秀な人材の確保や定着が難しくなる可能性があります。
たとえば、年間売上が1億円の歯科医院で人件費総額が4,500万円の場合、人件費率は45%となります。この数値が適正かどうかは、過去の推移や同規模医院との比較を通じて判断する必要があります。人件費率を定期的に確認することで、経営状態の変化をいち早く把握し、適切な対応策を講じることができるのです。
よく「隣の〇〇医院は25万円だから25.5万円にしよう」などの基準だけで給与を決めている歯科医院の院長先生もたくさんいらっしゃいますがそれは非常に危険です。
自院にあった適正な人件費率から導いた給与を設定することが医院の安定した経営に繋がります。
人件費率の計算方法
人件費率の基本的な計算式は「人件費÷売上高×100」です。この単純な計算式ですが、「人件費」に何を含めるかによって数値が変わってくるため、正確な把握が重要です。
人件費には以下の項目が含まれます:
- 給与・賞与(院長や歯科医師も含む全スタッフ)
- 社会保険料の事業主負担分
- 福利厚生費
- 研修費・教育費
具体的な計算例として、月間売上800万円の歯科医院で月間人件費が320万円の場合、人件費率は40%となります。この計算を毎月行うことで、季節変動や診療内容の変化による人件費率の変動を把握できます。
人件費率の計算において注意すべき点は、一時的な賞与や特別手当も含めた年間ベースでの計算も併せて行うことです。月次だけでなく、四半期や年間での人件費率も確認することで、より正確な経営状態の把握が可能になります。このように複数の期間で人件費率を算出し、総合的に判断することが望ましいでしょう。
人件費率を活用した給与水準の決定
人件費率は単なる経営指標ではなく、適切な給与水準を決定する上での重要な判断材料となります。業界の標準的な人件費率を参考にしながら、自院の財務状況に合わせた給与設計が可能になるのです。
例えば、適正人件費率を43%と設定した場合、予測年間売上9,000万円の歯科医院であれば、年間人件費の上限は約3,870万円となります。この総額をスタッフ数で適切に配分することで、無理のない給与体系を構築できます。
具体的には、歯科衛生士の年収を350〜450万円、歯科助手を280〜350万円という地域相場に合わせながら、医院の規模や各スタッフの経験・スキルに応じた給与設定が可能になります。人件費率を意識した給与設計により、スタッフの満足度を保ちながらも、医院の財務健全性を維持できるのです。
適切な給与水準の決定においては、スタッフの能力や貢献度に応じた評価制度と連動させることも重要です。人件費率の範囲内で、成果に応じたインセンティブを設けることで、モチベーション向上と人件費の適正化を両立させることができます。

給与の構成要素
歯科医院における給与体系は、単純な基本給だけでなく、さまざまな要素から構成されています。これらの要素を適切に組み合わせることで、スタッフのモチベーション向上と医院の人件費管理を両立させることができます。ここでは、給与を構成する主な要素とその設計方法について解説します。
基本給、職務給、能力給の理解
給与の中核となる基本給は、職務給と能力給の二つの要素から構成されることが一般的です。職務給は担当業務や役職に応じて決定される部分で、同じ職種であれば同水準となります。一方、能力給は個人のスキルや経験、資格などに基づいて決定される変動部分です。
歯科医院では、例えば歯科衛生士の職務給を月額22万円、能力給を経験や技術レベルに応じて2〜8万円と設定するケースがあります。このように基本給を構成要素に分けることで、職務の価値と個人の能力を適切に評価できる給与体系が実現します。
具体的には、歯科衛生士の場合、患者対応スキルや予防処置の技術、患者教育能力などを評価基準とした能力給の設計が効果的です。「なぜ職務給と能力給を分けるのか」というと、同じ職種でも個人差を適切に反映させ、スキルアップへの動機付けを強化するためです。明確な評価基準に基づく能力給の導入は、スタッフの成長意欲を促進し、医院全体のサービス品質向上にもつながります。
賞与、インセンティブ、諸手当の役割
基本給以外の給与要素として、賞与やインセンティブ、各種手当があります。これらは医院の業績や個人の成果に連動させることで、スタッフのモチベーション向上と医院の経営目標達成を促進する重要な役割を果たします。
賞与は一般的に年2回(夏冬)支給され、基本給の2〜3ヶ月分が相場です。医院の業績に応じて変動させることで、全スタッフが経営状況を意識するようになります。インセンティブは、自費診療の売上や患者紹介数などの具体的な成果に連動させた報酬です。
例えば、自費診療売上の3〜5%をインセンティブとして還元するシステムを導入している歯科医院では、スタッフの提案力が向上し、患者満足度と医院収益の双方が改善したケースがあります。このようなインセンティブ制度の導入により、「どうすれば医院と患者の双方にメリットをもたらせるか」をスタッフ自身が考えるようになります。
諸手当には、通勤手当、住宅手当、資格手当などがあり、これらを適切に設計することで、基本給だけでは反映しきれないスタッフの状況や貢献を評価できます。特に資格手当は、スキルアップへの投資を促す効果があり、医院全体のサービス品質向上につながります。
社会保険料と手取りの関係
給与設計において見落としがちなのが、社会保険料と実際の手取り額の関係です。スタッフにとって重要なのは名目上の給与ではなく、実際に受け取る手取り額です。適切な給与設計には、社会保険料の影響を考慮した総合的な視点が必要です。
社会保険料には、健康保険料、厚生年金保険料、雇用保険料、介護保険料(40歳以上)があり、これらは給与額に応じて変動します。例えば、月給30万円の場合、社会保険料の個人負担分は約5万円となり、手取りは約25万円になります。
給与額が上がると社会保険料も比例して増加するため、給与アップが必ずしも手取りの大幅増加につながらないケースもあります。特に社会保険の標準報酬月額の区分変更点では注意が必要です。たとえば、月給が28万円から30万円に上がった場合、標準報酬月額の区分が上がることで、実質的な手取り増加額は期待より少なくなることがあります。
「なぜ社会保険料を考慮した給与設計が重要か」というと、スタッフの満足度は最終的な手取り額に大きく左右されるからです。昇給や賞与の設計においては、社会保険料の影響を踏まえた手取りベースでの検討が望ましいでしょう。特に年末調整での還付金なども含めた年間の実質収入を意識した給与設計が、スタッフの生活安定と満足度向上に繋がります。
適切な給与水準の決め方
歯科医院における適切な給与水準を決定することは、優秀な人材の確保と定着、そして医院の財務健全性を両立させるための重要な経営課題です。ここでは、給与水準を決定する際の主要な判断基準と実践的なアプローチについて解説します。
業界水準との比較
適切な給与水準を決めるためには、まず歯科業界の標準的な賃金相場を把握することが不可欠です。地域や経験年数、保有資格によって相場は大きく異なるため、複数の情報源から詳細なデータを収集することが重要です。
歯科衛生士の場合、都市部では年収400〜500万円、地方では350〜450万円が一般的な相場となっています。ただし、これはあくまで平均値であり、経験や専門性によって上下します。例えば、予防歯科やインプラント治療などの専門分野に特化した技術を持つ衛生士は、より高い給与水準が期待できます。
給与相場の調査方法としては、歯科専門の求人サイトや厚生労働省の賃金構造基本統計調査、歯科医師会や衛生士会の調査データなどが参考になります。また、人材紹介会社に相談することでより詳細な地域相場を把握できることもあります。「なぜ業界水準を把握する必要があるのか」というと、極端に低い給与設定は人材の流出を招き、高すぎる設定は財務を圧迫するリスクがあるからです。業界標準を基準としつつ、自院の特性や地域性を考慮した適切な水準設定が求められます。
会社の財務状況と人件費比率
給与水準の決定において、医院の財務状況と適正な人件費比率の検討は欠かせません。歯科医院の場合、一般的に総収入の40〜45%が適正な人件費比率とされていますが、医院の規模や法人なのか個人なのか、専従者が何名いるのか?家族を専従者として雇用している場合、「実態に見合わない給与設定」や「税務対策目的の名目給与」があると、人件費率が見かけ上高くなったり逆に低く見えたりする可能性があります。
適切な人件費比率を維持するためには、定期的な財務分析と給与体系の見直しが必要です。特に新規設備投資や医院拡大などの大きな支出が予定されている場合は、一時的に人件費比率を下げることも検討すべきです。財務状況と人材確保のバランスを取りながら、持続可能な給与水準を設定することが医院経営の安定につながります。
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歯科医院経営において、人件費率の適切な管理は経営の安定性と成長に直結します。今なら、人件費率を簡単に計算・管理できる専用計算表を無料でプレゼントいたします。エクセルでできた表に現在の売り上げや人件費を入れることで、人件費率はもちろん、これから採用する人員に対しどれくらいの報酬を支払うことができるか?などの目安にもあります。この計算表を活用して、貴院の財務状況に合わせた最適な人件費管理を実現しましょう。
人件費率計算表には以下の機能が含まれています。
- 職種ごとの給与水準と構成要素
- 医院の売上目標と人件費比率の把握(収入ベースに対する人件費割合の計算に活用可能)
- 経験年数・評価に応じた年収モデル
- 手当設計と人件費増減の要因
- 評価制度と報酬の連動性の把握
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まとめ
人件費率は歯科医院経営において最も重要な財務指標の一つです。適切な人件費率の管理は、医院の財務健全性とスタッフの満足度を両立させる鍵となります。本記事では、人件費率の定義から計算方法、適切な給与水準の決め方まで、歯科医院経営者が知っておくべき基本的な知識を解説しました。
人件費率の適正値は一般的に40〜45%とされていますが、医院の規模や診療内容、地域性によって異なります。重要なのは、自院の経営方針や財務状況に合わせた適正値を見極め、それを維持するための給与体系を構築することです。
給与設計においては、職務給と能力給のバランス、賞与やインセンティブの活用、社会保険料の影響など、多角的な視点から検討することが重要です。また、明確な評価基準に基づいた公平な給与体系は、スタッフのモチベーション向上と人材定着に大きく貢献します。
法人化を検討している医院では、賃金制度と給与制度の違いを理解し、労働分配率や人事生産性といった指標を活用した体系的な制度設計が望ましいでしょう。個人事業主やひとり社長の場合も、最低賃金や地域相場、労働法規を踏まえた適切な給与管理が必要です。
人件費は単なるコストではなく、医院の成長と発展のための重要な投資です。適切な人件費率管理と給与設計により、スタッフの満足度向上と財務の健全性を両立させ、長期的な医院の発展につなげましょう。
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