歯科医院にとって「歯科医師国保」は身近な保険のひとつです。
歯科医院の先生や人事担当者様の中には、「歯科医師国保に加入にしたほうがよいのかな?」「協会けんぽとはどう違うのかな?」とお悩みの方もいるのではないでしょうか。
この記事では、歯科医師国保の基本知識や協会けんぽ(健康保険)との違い、それぞれのメリット・デメリットを解説します!
どの健康保険制度を選択するべきか検討中の方は、ぜひこの記事を参考にしてください。
それぞれの制限なども考慮し、最適な保険へ加入するようにしましょう。
歯科医師国保とは?
まず、「歯科医師国保」についての基本知識をご紹介します。
歯科医師国保とは、歯科医院で働く従業員とその家族を対象とした医療保険制度のことです。
万が一の病気や怪我などがあった時に、経済的な負担を軽減し、安定した生活を支えるための公的な保険制度です。
名称に“歯科医師”とありますが、「歯科医師」のみが対象ということではありません。
「歯科衛生士」「歯科技工士」「歯科助手」「事務スタッフ」まで、歯科医院で働く従業員すべての方が対象となります。それに加えて、従業員の家族も保険の対象者となります。
歯科医師国保を運営する組合は多数存在し、国が設けた基準で運営されています。
また、加入する団体は地域により異なります。
公式ホームページによると、被保険者数が64,000人強・予算規模が230億円超の大規模組合です。
※参考:全国歯科医師国民健康保険組合
歯科医師国保の具体的な保障内容や加入条件は以下の通りです。
※歯科医師国保を運営する組合は地域によって異なり、団体ごとに受けられるメリット等も異なります。
加入の際は、組合ごとの内容や条件をよく確認してください。
今回ここでは、支部の数が大きい「全国歯科医師国民健康保険」を例にしてご紹介します。
歯科医師国保の保障内容
ここで紹介する「全国歯科医師国民健康保険」では、大きく法定給付と任意給付の2種類に分けられます。
法定給付
法定給付とは法律で給付の内容や範囲を定めた給付です。
法定給付には、必ず行わなければならない「絶対的必要給付」と、特別の理由があれば行わなくてもよい「相対的必要給付」があります。
― 絶対的必要給付で受けられる保障内容
項目 | 内容 |
---|---|
療養の給付 | 組合員:7割給付 家族:7割給付 義務教育就学前まで:8割給付 高齢受給対象者(組合員・家族): 現役並み所得者は7割給付 一般所得者は8割給付 詳細:保険給付のページへ |
高額療養費 | 同じ人が同じ月内(暦で1日~末日)に、 同じ医療機関で支払った一部負担金が限度額を超える場合、 申請により一部負担金から自己負担額を控除した額が高額療養費として支給されます。 その他、世帯合算・多数該当・特定長期制度等あり。 詳細:高額療養費のページへ |
療養費 | 本人が立替払いした後、組合に請求すれば給付割合に従って一定基準額を支給。 詳細:療養費のページへ |
海外療養費 | 海外渡航中の疾病等について、被保険者が海外の病院等において療養等を受けた場合の費用も含む。 なお、様式中に「療養の給付を受けることができなった理由」の欄に、 「海外渡航中の疾病のため」と付記すること。 |
移送費 | 療養の給付などを受けるために移送されたとき。 |
― 相対的必要給付で受けられる保障内容
項目 | 内容 |
---|---|
出産育児一時金 | 被保険者が出産(妊娠4ヶ月以上の死産・流産を含む)した場合 1児につき420,000円(H21年10月~)を支給。 詳細:出産育児一時金のページへ |
葬祭費 | 被保険者が死亡した場合、その者の葬祭を行う者に支給される。 1種組合員:300,000円 2種組合員:150,000円 3種組合員:100,000円 1・2・3種組合員の家族:100,000円 後期高齢者組合員の家族:100,000円 詳細:葬祭費のページへ |
任意給付
任意給付とは組合が独自の定めによる給付です。
組合員が入院した場合に、申請をすると受け取れるものです。
― 任意給付で受けられる保障内容
項目 | 内容 |
---|---|
傷病手当金 | 1種組合員 入院一日につき 4,000円 2種組合員 入院一日につき 1,500円 3種組合員 入院一日につき 1,500円 詳細:傷病手当金のページへ |
出産手当金 | 産前6週間、産後8週間において業務に服さなかった組合員 一日につき 1,500円 詳細:出産手当金のページへ |
歯科医師国保の加入条件
続いて、歯科医師国保の加入条件についてご紹介します。
全国歯科医師国民健康保険組合では、被保険者の種別として4つの条件があります。
種別 | 定義 |
---|---|
1種組合員 | 支部所在地の歯科医師会会員である歯科医師で規約第4条の地区内に住所を有する者とする。 |
2種組合員 | 1種組合員である歯科医師が開設又は管理する診療所に雇用される歯科医師で 規約第4条の地区内に住所を有する者とする。 |
3種組合員 | 1種組合員である歯科医師が開設又は管理する診療所に雇用される者 (技工士、衛生士、歯科助手、事務員等)で規約第4条の地区内に住所を有する者 及び組合に勤務する者とする。 |
家族 | 世帯員の範囲は、同一世帯に属している者とする。 |
歯科医師国保と協会けんぽの違いは?3つのポイント
加入する際に歯科医師国保と比較して迷うのは「協会けんぽ(健康保険)」になるかと思います。
ここからは、歯科医師国保と協会けんぽの違いを3つのポイントに沿って解説します。
①保険料
「協会けんぽ」では、保険料は収入によって変化しますが、「歯科医師国保」では収入による変化はありません。
そのため、協会けんぽと歯科医師国保のどちらがお得になるかは金額によって異なります。
年収や家族構成などを考慮して、加入者のライフスタイルや経済状況に合っているかを見極めることが重要です。
②扶養
「協会けんぽ」では扶養家族の扱いがあるため、世帯人数により保険料が増減することがありません。
所得に関わらず同居する家族や生計を共にする家族を扶養家族として加えることができます。
一方で、「歯科医師国保」では扶養という考え方がないため、世帯人数分の保険料が発生します。
例えば、シングルマザーの場合、ご自身とお子様、2人分の保険料を負担しなければならないため、負担が大きくなる可能性があります。扶養家族の扱いを検討している場合には、注意が必要です。
③厚生年金への加入
「協会けんぽ」では、厚生年金への加入が義務付けられています。
一方、「歯科医師国保」では厚生年金への加入は義務ではないため、事業所ごとに別途加入をする必要があります。
📝歯科医師国保以外の健康保険制度
「歯科医師国保」以外の健康保険制度には、「健康保険(社会保険)」と「国民健康保険」があります。
【(1)健康保険(社会保険)】
会社員や公務員などが一般的に加入する医療保険制度です。
主に、「健保組合」「協会けんぽ」「共済組合」の3つの運営組合があります。
● 医療保険制度の種類と主な加入者
<協会けんぽ>中小企業に属する正社員・非正規社員とその家族
<健保組合>大企業(グループ企業)に属する正社員・非正規社員とその家族
<共済組合>公務員や私立学校の教職員とその家族
💡さらに詳しく!協会けんぽとは?
協会けんぽは、「全国健康保険協会」のこと。日本最大級の保険加入者数の協会です。
加入者が良質で効率的な医療を受けられることを目指し、健康の保持促進を目的に、保険事業や福祉事業に取り組んでいる協会です。東京都の本部と各都道府県の支部から成り立っています。
【(2)国民健康保険】
75歳未満のすべての人に加入義務がある医療保険制度です。
主な加入者は、自営業やフリーランス、パート・アルバイトなど勤務先の医療保険に加入していない方などです。
(勤務先の健康保険や公務員の共済制度に加入している方など一部対象外になります。)
国民健康保険は、自治体によって保険料が異なります。
また、保険料は住民票の世帯単位で、加入者数・年齢・前年度の所得をもとに計算されます。
(加入者が多いほど、保険料が上がります。)
歯科医師国保と協会けんぽのメリット・デメリット
歯科医師国保の基本知識を解説しましたが、歯科医師国保に加入すると、どのようなメリットやデメリットがあるのでしょうか?
ここからは、協会けんぽのメリット・デメリットと比較しながら解説します。
メリット
歯科医師国保 | ◎ 収入によって保険料が変わることなく一律 ◎ 福利厚生が充実している |
協会けんぽ | ◎ 扶養家族分の保険料の負担がない ◎ 傷病手当金、出産手当金などのアフターフォローがしっかりしている |
歯科医師国保
― 収入によって保険料が変わることなく一律
歯科医師国保の場合は、収入によって保険料が変化することなく一律のため、金額によっては協会けんぽよりも少なくなる可能性があります。
働く環境や収入の変化に関係なく、安定した保険料が設定されることが大きなメリットです。
収入の増減により、保険料が急に上がる心配がないため、歯科医師が安心して仕事に専念できます。
― 福利厚生が充実している
歯科医師国保では、インフルエンザなどの予防接種の補助やがん健診・歯科健診などの健康診断、メンタルヘルスなど様々な福利厚生が用意されているので加入者自身の健康面も守られて、安心です。
協会けんぽ
― 扶養家族分の保険料の負担がない
協会けんぽでは、扶養家族の扱いがあるため、世帯人数によって保険料が増減することがありません。
扶養家族分の保険料の負担がない点はメリットのひとつです。
― 傷病手当金、出産手当金などのアフターフォローがしっかりしている
傷病手当金制度については、歯科医師国保にも制度はありますが、歯科医師国保の場合は"入院した場合に限り"適用される点で少し異なる部分があります。
協会けんぽの場合は、自宅での療養であっても認められる制度である点や、出産手当金制度もある点など、アフターフォローがしっかりしている印象です。
デメリット
歯科医師国保 | △ 加入家族人数分の保険料の支払いが必要 △ 加入可能な人数が4名までと制限がある △ 自分の勤務先には保険請求できない |
協会けんぽ | △ 支給されている給与額によって負担が増える △ 医院側が保険料の1/2を負担する必要がある |
歯科医師国保
― 加入家族人数分の保険料の支払いが必要
歯科医師国保では、扶養という考え方がないため、加入家族人数分の保険料を支払う必要があります。
― 加入可能な人数が4名までと制限がある
歯科医師国保は、事業所において、従業員が常時4人以下の歯科医院しか加入できない点に注意が必要です。
そのため、常時5人以上の歯科医院では国民健康保険に加入しなければなりません。
― 自分の勤務先には保険請求できない
歯科医師国保の場合、加入者自身の勤務先には保険の請求ができないことになっています。
歯科医師国保の「療養の給付」は通常は7割給付(3割負担)が受けられますが、自身の勤務先で診療を受ける際には、7割給付が適用されません。
全額個人負担となるため、従業員にとっては、大きな負担になる可能性があります。
※その際は、歯科医院側で何割か負担するなどの支援をする歯科医院もあります。
協会けんぽ
― 支給されている給与額によって負担が増える
協会けんぽでは、保険料が収入によって変わります。
給与額によっては、歯科医師国保に比べて、保険料の負担が増える可能性もあるでしょう。
― 医院側が保険料の1/2を負担する必要がある
医院側から見たデメリットですが、協会けんぽの場合、医院側が保険料の1/2を負担する必要があります。
※協会けんぽへ加入するには費用がかかるため、その分給与に上乗せする形で歯科医師国保へ加入する先生もいます。
まとめ
この記事では、「歯科医師国保」についてご紹介しました!
歯科医院で働く従業員向けの医療保険制度で、加入するメリットも多くありますが、制限がある点にも注意して、加入を検討してくださいね。
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