いきなりですが、あなたの歯科医院では退職金制度を導入していますか?
歯科医院に就職や転職をしようとしている歯科衛生士にとって、退職金の有無は歯科医院を決める大きな選択肢になるでしょう。
そのため、退職金制度を導入している歯科医院の方が導入していない歯科医院よりも、当然スタッフの採用は有利になります。
それでは、実際に退職金制度を導入している歯科医院は、どのくらいあるのでしょうか。
本記事では、歯科衛生士の退職金の実態や、相場、などについて解説していきます。
退職金とは?
退職金とは、一般的には退職した場合に一定の勤続年数や業績に応じてお金が支給される制度のことです。
ただし、退職金制度の有無や、支給する場合に勤続何年以上で支給されるかや、どのように退職金の額を計算するかはそれぞれの企業等が自由に決められます。
歯科衛生士の退職金制度の実態
歯科衛生士として働く場所は、歯科医院がほとんどを占めていますが、病院・大学病院や企業・事務所など様々です。
歯科衛生士として働く場所の中で退職金制度を導入している割合として、病院・大学病院や企業・事務所の90%に近い割合で導入しているのに対し、歯科医院での退職金制度の導入はまだまだ低くなっています。
ここでは、歯科衛生士の退職金制度の実態について見ていきます。
歯科医院の退職金制度の有無
昭和56年から5年ごとに調査している日本歯科衛生士会の「歯科衛生士の勤務実態調査(令和2年)」によれば、退職金制度が有ると回答した歯科衛生士の割合は46.5%です。
退職金制度が無いと回答した歯科衛生士の割合は、39.2%、わからないと回答した歯科衛生士は12.8%でした。
また、歯科医院(診療所)に勤務する常勤者の61.8%は、退職金制度が有ると回答しています。
歯科医院で働く歯科衛生士の4割近くは退職金制度がない環境で働いているんです。
雇用形態別の退職金の有無
日本歯科衛生士会の「歯科衛生士の勤務実態調査(令和2年)」によると、歯科衛生士の雇用形態別の退職金は、常勤の74.7%、非常勤の8.3%が勤務先に退職金制度が有ると回答しています。
常勤の歯科衛生士の約4分の3が退職金を受け取れる可能性があるのに対して、非常勤の歯科衛生士の場合は約10分の1しか退職金を受け取れません。
現状では、雇用形態によって退職金の有無に大きな差があります。
非常勤でも退職金が受け取れると他院との差別化につながりそうニャ
歯科衛生士の退職金の相場
退職金の額は、勤続年数、職種、退職理由などによって変わりますし、どこの大学病院や総合病院に勤務しているか、どこの歯科医院に勤務しているかによっても変わります。
そのため、歯科衛生士の退職金の相場を金額で出すことは難しいのですが、東京都産業労働局の「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」では業種別・学歴別の平均退職金額が公表されています。
その中で歯科衛生士が該当する医療業・福祉業の平均退職金額は、高校卒で332万3,000円、大学卒で342万4,000円です。
医療業・福祉業は、他の業種に比べると平均退職金額が低くなっています。
余談ですが、高校卒で最も高かった「運輸業・郵便業」が1,142万8,000円、大学卒で最も高かった「金融業・保険業」は1,442万2,000円なんですよ。
歯科衛生士の給与の相場
歯科衛生士の退職金の計算方法は、歯科医院などによってそれぞれですが、基本給を基準に計算するケースも多いです。
例えば、以下の計算方法などです。
・月給(基本給+手当)の1か月~4か月分
・基本給×勤続年数
・基本給×勤続年数×0.6~0.7
・基本給×勤続年数×退職事由係数(自己都合退職や定年退職により係数が変わる)
退職金の基となる歯科衛生士の給与の相場は、日本歯科衛生士会の「歯科衛生士の勤務実態調査(令和2年)」によると以下のようになります。
常勤の場合、「300万円以上400万円未満」が35.3%、「 130万円以上300万円未満」が31.3%、「 400万円以上500万円未満」が16.6%です。
このように、8割以上の常勤の歯科衛生士が、年収130万円以上500万円未満になります。
一方、非常勤の場合は、「130万円未満」が58.2%、「 130万円以上300万円未満」が32.5%で、8割以上の非常勤の歯科衛生士が、年収300万円未満です。
歯科衛生士の退職金の計算方法例
ある歯科医院の退職金の計算方法は、以下の計算式だったとします。
基本給×勤続年数×退職事由係数
例えば、基本給が25万円、勤続年数が10年、退職事由が自己都合退職(退職事由係数0.8)の歯科衛生士の退職金の金額は、以下の計算式で算出できます。
25万円×10年×0.8=200万円
この歯科衛生士の退職金の金額は、200万円です。
歯科医院における退職金制度の導入
退職金の支給は法律で定められているわけではなく、退職金の導入は義務ではありません。
そのため、退職金を導入するかどうかは歯科医院の自由です。
もちろん、歯科衛生士にとっては、退職金制度がある歯科医院に勤務する方がよいでしょう。
ここでは、歯科医院において退職制度を導入する目的やメリット、デメリット、退職金にかかる税金、退職金導入のための積立について解説していきます。
歯科医院において退職金制度を設ける目的やメリット
歯科医院において退職金制度を設ける目的やメリットは、以下になります。
・優秀な歯科衛生士が長く勤めること
退職金は、一般的に長く勤めるほど金額が高くなります。
そのため、歯科衛生士が長く勤務し、退職率がさがります。
また、優秀な歯科衛生士が、長く勤めるというメリットにもなるのです。
・求人のPRになること
退職金制度の導入は、歯科医院の福利厚生の充実をアピールすることができます。
その結果、優秀な求人の採用につながります。
また、他の歯科医院との差別化が可能です。
・歯科衛生士の退職後の生活のため
退職金を支給することで、歯科衛生士の退職後の生活を支えることが可能です。
歯科医院における退職金制度を設けるデメリット
歯科医院における退職金制度を設けることは、メリットばかりではありません。
以下のようなデメリットもあるため、よく検討することが必要です。
・退職金制度の一方的な廃止が難しいこと
退職金制度を導入した後に、退職金制度を一方的に廃止することはできません。
経営が苦しくなったなどの理由がある場合であっても、歯科医院のスタッフの同意を得ることが必要です。
・退職金の減額も難しいこと
退職金制度を導入した後に、経営が苦しくなったなどの理由があっても、退職金の減額はスタッフへの不利益変更になるため難しいでしょう。
廃止の場合と同様に、歯科医院のスタッフが同意できるような合理的な理由が必要です。
退職金にかかる税金
退職金には、原則所得税や住民税がかかります。
ただし、退職所得控除の対象となりますので、一定の金額までは非課税です。
退職所得控除による非課税額を超えた金額に対して、所得税や住民税がかかります。
また、「退職所得の受給に関する申告書(退職所得申告書)」を歯科医院が提出した場合は、税金が源泉徴収されるので、確定申告は不要です。
退職金制度導入のための積立
歯科医院が退職金制度を導入しても、何もしなければ退職金を支払うことができません。
滞りなく退職金を支払うためには、積立方法を設計しなければなりません。
歯科医院が退職金制度導入のために取り組みやすい積立方法に、中小企業退職金共済(中退共)制度があります。
中退共とは、中小企業の従業員のための国の退職金制度です。
歯科医院が中退共と退職金共済契約を結び、毎月の掛金を納付することで、従業員が退職した場合に中退共から直接従業員に退職金が支払われる仕組みです。
中退共の特徴は、国からの助成が受けられることです。
退職金について検討している院長先生は、顧問税理士や社労士の先生へ聞いてみてくださいね
まとめ
歯科医院が退職金制度を導入することで、福利厚生の充実が図れますし、採用にも有利になります。
また、歯科衛生士などのスタッフのやる気やモチベーションにもつながります。
しかし、退職金制度を導入した場合には、業績にかかわらず退職金を支給しなければなりません。
退職金制度の導入には、大きなメリットもありますが、デメリットもありますので、慎重に検討する必要があります。
退職金の導入は、福利厚生の充実につながるため、求職者への大きなPRになります。
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♦︎この記事の監修者
♢ 小島 章彦 (こじま あきひこ)
社会保険労務士
信用金庫に8年、システム開発の会社に現在まで20年以上勤務。
社会保険労務士・行政書士の資格を保有し、人事労務関係、社会保険関係の記事を中心に7年以上執筆活動を続けている。最近では、労務関係の記事の監修作業も行っている。
2001年 | 社会保険労務士資格取得 |
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2002年 | 行政書士資格取得 |
2017年~ | 社会保険労務士や行政書士の資格を生かして法律系webライターとして、社会保険、労務関係、その他の法律などを中心に執筆活動をしている。 |