まさか、うちの医院で……
退職代行を使われたんだけど、どうすればいいの?
突然の退職代行の通知に、動揺を隠せない院長も多いのではないでしょうか。
歯科医院の院長にとって、スタッフの退職は大きな痛手です。特に、退職代行を通じた退職は、その背景に様々な問題が潜んでいる可能性があります。
2度目3度目をなくすためには、抜本的な見直しが必要です。
そこで今回は、「退職代行を使われた際に院長が知っておくべきこと」について解説します。その他、「具体的な対応手順」や「使われた際の注意点」と「対策」も紹介しているので、ぜひ参考にしてください。
退職代行を使われた時に院長が知っておくべきこと

退職代行を使われると、驚いてどのように行動すればいいのかわからなくなってしまうものです。その際は、まず以下について知っておきましょう。冷静に行動できるようになります。
- 退職代行の概要
- 退職代行の種類
退職代行の概要
退職代行とは、従業員が自ら会社に退職の意思を伝えるのではなく、第三者にその手続きを代行してもらうサービスです。従業員本人に代わって、代理人が勤務先に退職の意向を伝えます。
従業員が直接会社に退職を申し出る際、上司とのやり取りや退職手続きが難しいと感じる場合に、利用される傾向にあります。
例えば、パワハラを受けている従業員が直接上司に退職を申し出ることが難しい場合、退職代行を利用して安全に退職手続きを進めるといったケースをイメージすると、わかりやすいでしょう。
こうした様々な理由によって会社に意向を伝えるのが難しい際に、退職代行は良く利用されます。
退職代行の種類
一口に退職代行といっても、以下の3種類の形態があります。
- 弁護士事務所:弁護士が代行する方法
- 退職代行ユニオン:外部の労働組合が運営しているサービス
- 民間の退職代行:民間企業が運営しているサービス
これらの中で、最も交渉しやすいのが弁護士事務所が代行した場合です。日程の調整や引き継ぎといった交渉、裁判に至るまで全て弁護士が対応します。
一方、退職代行ユニオンでは弁護士のように代理人として動けません。民間の退職代行サービスに至っては、「本人に代わって会社に退職届を提出する」だけしかできないので、交渉すら不可能です。
このように退職代行の種類によって、対応の幅が大きく変わります。事前に知っておくと冷静に判断できるので、覚えておきましょう。
退職代行を使われた際に対応する手順

実際に退職代行を使われると、慌ててしまうものです。もし使われたとしても、冷静になって以下の手順で進めましょう。
- 冷静に状況を把握する
- 退職代行利用の事実確認をする
- 退職代行利用者の雇用形態を確認する
- 退職届の提出を依頼する
- 貸与品の返却を依頼する
- 退職届を受理する
Step1.冷静に状況を把握する
まずは冷静になり、状況を正確に把握してください。驚いたりパニックになったりすると、冷静な判断ができなくなり、事態を悪化させる可能性があるためです。
退職代行からの連絡内容をしっかりと確認し、いつから退職を希望しているのか、どのような理由で退職代行を利用しているのかなどを把握しましょう。
また、この際、弁護士事務所や退職代行ユニオンからの電話であれば、名称や氏名をメモしておき、折り返すことをオススメします。詐欺や嫌がらせといった可能性も考えるため、念には念を入れましょう。
Step2.退職代行利用の事実確認をする
状況を把握できたら、次に退職代行からの連絡内容だけでなく、従業員本人からも退職の意思確認をしてください。退職代行からの連絡が事実かを確認するのが目的です。
ただし、退職代行サービスを利用しているので、ほとんど期待はできません。可能性はゼロではないので、まずは試してみましょう。
Step3.退職代行利用者の雇用形態を確認する
本人が退職を決めているとわかれば、次に雇用形態を確認します。従業員には、退職をする権利があります。退職の申し出があれば、歯科医院は正当な理由なく退職を拒否できません。
第627条
当事者が雇用の期間を定めなかった時は、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は解約の申し入れの日から2週間を経過することによって終了する。
引用:厚生労働省
注意したいのが、従業員の雇用形態によって、退職手続きが異なる場合があるという点です。正社員やパート、アルバイトなどで労働契約の内容や退職手続きが異なります。
まずは雇用契約書を確認し、退職に関する規定を把握しましょう。
Step4.退職届の提出を依頼する
退職時は、手続き上の問題で退職届が必要です。退職代行から退職届が送られてきた場合は、内容に不備がないかを必ず確認しましょう。
この際に注意したいのが、フォーマットがあるかどうかです。規定のフォーマットを決めている場合は、書き直してもらうことになります。
その場合はフォーマットを送り、返送してもらうようにしましょう。
Step5.貸与品の返却を依頼する
退職届と一緒に手続きをしたいのが、貸与品です。従業員に支給している物品があれば、返却を依頼しましょう。例えば、以下のようなものが当てはまります。
- 制服
- 仕事用のPC
- スマートフォンやタブレット
貸与品は歯科医院の財産です。後のトラブルを防ぐためにも、必ず回収しましょう。
オススメは、貸与品の一覧を作成し、返却期限を添えて従業員に送付する方法です。退職届のフォーマットを送るなら、一緒に送りましょう。
Step6.退職届を受理する
従業員から提出された退職届が手元に届いたのなら、受理をして退職手続きを進めましょう。もし書類上の不備があれば、直接か退職代行を通じて連絡を取り、スムーズに進められるようにしてください。
退職手続きが完了したら、従業員本人に伝えましょう。メールでも良いのですが、書面も郵送しておくとより確実に伝わります。退職日や精算すべき賃金などを明記した退職証明書を作成し、従業員に渡しましょう。
退職代行を使われた際の3つの注意点

退職代行を使われた際は、気を付けたいポイントがあります。特に以下の3つは要注意です。
- 民間の退職代行サービスとは交渉しない
- 有給休暇を消化させる
- 退職手続きを速やかに進める
民間の退職代行サービスとは交渉しない
民間の退職代行サービスとは、直接交渉をしないようにしましょう。弁護士のような代弁行為をすると違法になるためです。退職代行を受けた側としてはペナルティが発生しませんが、退職手続きが無効になるケースがあります。
すると、結果的に別の方法で退職手続きをしなければならなくなるため、手間だけが増えます。
民間の退職代行サービスとは交渉をせず、もし交渉を持ちかけてきた場合は非弁行為であると伝えましょう。どうしても交渉をしたいと伝えてきた場合は、本人が直接来るように伝えるか、弁護士に相談してください。
有給休暇を消化させる
退職代行を使われた際は、従業員本人の勤務状況をチェックしなければいけません。その際、有給休暇が残っている場合は消化させましょう。
もし有給休暇の消化を無視してしまうと、労働基準法違反になります。最悪の場合、歯科医院側が非を責められてしまう可能性もあるため、要注意です。
従業員が希望する日程で有給休暇を消化できるように、柔軟に対応しましょう。
退職手続きを速やかに進める
退職代行の利用を含め、本人が退職の意向を伝えてきた時は、既に歯科医院に対してポジティブな関係を持っていません。何かフォローをして思いとどまらせたくなりますが、効果はまずないと考えておきましょう。仮に思いとどまったとしても、モチベーションが下がった状態では良い結果になりません。
退職手続きは、遅れれば遅れるほど双方にとって、不利益な状況が生じる可能性があります。
速やかに退職届を進め、円満に退職できるようにしましょう。
退職代行を使われないための5つの対処方法

退職代行は、退職したいと直接いえないほど関係がこじれた場合に利用されます。そのため、使われないように普段から以下を気にするようにしましょう。
- 職場環境を見直す
- 労働環境を改善する
- 日常的なコミュニケーションを強化する
- 退職時の手続きをスムーズに行う
- 法的リスクを最小限にする
職場環境を見直す
退職代行を使われないためには、まず職場環境を見直しましょう。従業員が働きやすい職場環境づくりが、何よりも大切です。
職場環境が悪いと、従業員はストレスを感じ、退職を検討する可能性が高くなります。誰だってストレスのたまる場所で働きたくないもの。オフィス内のレイアウトや休憩スペース、証明など自分では気が付かない部分も多いので、従業員にヒアリングしつつ、職場環境を改善していきましょう。
労働環境を改善する
労働環境の改善は、従業員のモチベーション向上に繋がります。特に、過度な残業や不当な扱いなどは、従業員を疲弊させ退職に繋がる可能性があります。
残業時間の削減や休日取得の奨励、ワークライフバランスの推進を積極的に進め、従業員が働きやすい労働環境を整えましょう。
日常的なコミュニケーションを強化する
従業員とのコミュニケーションも重要です。普段の何気ない会話の中から従業員の声に耳を傾けて、問題点を発見・改善していきましょう。
忙しいので難しいという場合は、定期的な面談を実施したり、意見箱を設置したりといった方法がオススメです。院長と従業員がコミュニケーションを取れる機会を増やし、相互理解を深めていきましょう。
退職時の手続きをスムーズに行う
退職手続きをスムーズに行うのも重要です。退職代行サービスに不満を漏らしたり、手続きが煩雑だったりすると、対応した従業員が不満を抱き、退職を決意してしまう可能性があります。
退職の手続きに関するマニュアルを作成したり、退職後のキャリア相談に応じたりするなど、従業員が安心して退職できるような環境を整えましょう。
法的リスクを最小限にする
退職代行を使われないためには、労働法などの法的なリスクを最小限にするよう心がけてください。サービス残業の強要や不当な休日出勤など、法律に違反した行為は、従業員から訴えられる可能性があります。最悪の場合、歯科医院のイメージダウンにも繋がります。
そのため、労働契約書をしっかりと作成したり、ハラスメント防止対策を実施したりして、法的なリスクを管理しましょう。
従業員の意見を積極的に聞き入れ、働きやすい職場環境づくりに取り組んでいけば、自然と退職代行の利用を防げます。自分本位の職場になっていないか、1度振り返ってみましょう。
退職代行を使われないためのオススメの取り組み

退職代行を使われないためには、以下の方法に取り組んでみましょう。
- 定期的に従業員満足度調査を実施する
- 公正な評価制度を導入する
- ストレスケアの取り組みを観測・公表する
定期的に従業員満足度調査を実施する
退職代行を使われないためには、従業員満足度調査を定期的に実施し、従業員の不満や要望を把握して改善していくことが重要です。
従業員が働きやすいと感じているか、歯科医院に不満を抱えているかを定量的に把握して、問題点を早期に発見しましょう。
満足度調査として実施しやすいのは、匿名で回答できるアンケートです。職場環境や人間関係、仕事内容など様々な項目について意見を聞いてください。
問題点が見つかれば、後は改善していくだけです。
公正な評価制度を導入する
公正な評価制度の導入も重要です。従業員のモチベーション向上に繋がります。評価が不公平だとモチベーションが低下し退職を考える可能性があるため、意識したいポイントです。
評価制度を作る際は、目標設定はもちろん定期的な面談や成果に対する評価などを明確にし、公平な評価を行う仕組みにしましょう。
どう評価されるのかがわかると、従業員も目標に向かってモチベーション高く取り組んでくれるようになります。
ストレスケアの取り組みを観測・公表する
ストレスケアの取り組みを積極的に行い、従業員に周知させる方法も重要です。1日8時間以上を過ごす職場でのストレスは、従業員の心身に悪影響を与える最も大きい要因。ストレスが大きいほど、退職に繋がる可能性があります。
そのため、従業員が利用できるストレスチェックやカウンセリングサービスの導入、健康診断の実施やリフレッシュ休暇の奨励など、様々なストレスケアを導入していきましょう。
実施する際は従業員に周知し、利用しやすい環境も作っていってください。
退職代行は「なぜ使われたのか」を考えて対処しよう

退職代行は、現代の労働問題を象徴する1つの現象です。歯科医院においても、決して他人事ではありません。
退職代行に直面した際の対応や予防は、今回紹介したもの以外にも様々な方法があります。利用された際は、歯科医院それぞれに合った対策を講じてください。
従業員との信頼関係を築き、働きがいのある職場を作っていけば、退職代行は起こりにくくなるでしょう。
また、退職代行を根本的に解決するには、求人から考える方法が最も効果的です。何となく求人を出すのではなく、「求人の本質」を理解した求人であるかどうかが重要になってきます。
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