【歯科医院の人事評価制度】不満の原因と対処法を解説

人事評価

歯科医院の経営において、歯科衛生士や歯科助手に対する人事評価は重要な取り組みのひとつですが、評価制度に対するスタッフからの不満は必ずと言っていいほど出るものです。
不満の原因はひとつとは限らないので、適切に対処するにはあらゆる原因を把握することが大切です。

本記事では、人事評価制度に対する不満の原因と不満によって起こる問題について紹介し、スタッフの不満をなくすための対処法について解説していきます。

スタッフの不満が少ない人事評価制度を新しく作りたい」など、人事評価制度を前向きに検討している歯科医院の院長先生は、ぜひ参考にしてください。

約8割の人が人事評価制度に不満を持っている

株式会社ライボの調査機関『Job総研』が実施した「2023年人事評価の実態調査」によると、8割近くの人が自分の職場の人事評価制度に不満を感じていることがわかりました。

<質問>
会社からの評価に不満を感じたことはありますか?(回答者:社会人男女758人)

<回答>
とても感じている:23.2%
やや感じている:23.4%
どちらかといえば感じている:28.6%

全く感じていない:6.5%
感じていない:6.7%
どちらかといえば感じていない:11.6%

参照:2023年人事評価の実態調査

大多数の従業員が、人事評価制度に満足していないのですね。

人事評価制度に対する不満の理由(失敗例)

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次に、人事評価制度に対する不満の理由を評価制度の失敗例と合わせて紹介します。

①評価基準が不明瞭

<失敗例>
医院の人事評価の項目・評価基準について、院長と管理職は内容を把握しているが、スタッフにはそれらが公開されていない

人事評価制度への不満で最も多いといわれるのが、評価基準の曖昧さです。
評価基準に明確な決まりがなく、また評価基準が公開されていない場合、「なぜ自分よりも他のスタッフの評価が高いのだろう?」「院長の好き嫌いで評価が決まっているのでは?」のように、不満が発生しやすくなります。

なお、評価基準において、個人の働きや成果が直接数字として表れる場合は、明確な基準を設けやすく不満も出にくい傾向にあります。
しかしながら、歯科衛生士・歯科助手の業務内容は、数字として結果に表れにくい仕事も多いため、単純な評価を下すことが難しいケースも少なくないでしょう。

②評価者による偏りがある

<失敗例>
ある医院では、上司AがCさん・Dさんの評価を、上司BがEさん・Fさんの評価を行っているが、「さんの評価は甘めであるのに対し、Bさんの評価は厳しめである」と一部のスタッフから不満の声が上がっている。

評価基準ではなく、評価基準の運用者に対する不満も多いです。

人事評価は人が行うため、どうしても評価者の価値観や経験、社員に対する印象が影響してしまいます。
上司の主観により評価にばらつきが出ることで不公平感が生まれ、スタッフが不満に感じることも少なくありません。
また、評価者が複数いる場合は、各評価者によって評価の基準が大きく変わってしまう可能性もあります。

さらに問題なのは、現場の状況を把握していない上司が評価をしているケースです。
スタッフの仕事内容や成果を適切に把握できていない上司による人事評価は、「自分のことなんて全然分かっていないのに」と不満に繋がる可能性が高いです。

③評価結果の説明が不十分

<失敗例>
歯科衛生士のAさんは、今年は特に仕事を頑張ったと思っていたが、上司による人事評価は自己評価よりもかなり低かった。なぜこの評価となったかの説明はなく、自分から聞くのも気が引けるため、モヤモヤしている。

人事評価が行われた後、昇給・昇進などの結果のみ通知されるという職場は意外と多いです。
特に自己評価よりも低く評価されている場合、「なぜこの評価なのか?」という問いに対して納得できる答えが得られないと、スタッフは不満や疑心を抱くでしょう。

また、今後の課題や改善点が不明なまま評価が終わってしまうと、スタッフ側もどこを見直すべきか改善点が見出せません。
スタッフ自身が気づいていない事実もあると思いますので、評価結果のフィードバックは大切です。

④評価結果が昇進、昇給につながらない

<失敗例>
歯科衛生士のAさんは、昨年度の人事評価が高かったが、今年度初の給料明細にて給料がほとんど変わっていなかったため、「何のための評価制度なんだろう?」と職場の人事評価制度の存在意義に疑心を抱いている。

評価制度が等級や報酬と結びついていない場合、「高評価を得ているのに、待遇は変わっていない」と、スタッフは不満を抱きやすくなります。
これは、人事制度の設計に問題があるといえます。

人事評価には、人材育成や人員配置の検討材料など、処遇の決定以外の目的もありますが、やはり報酬に反映されないとスタッフからの不満は大きくなりますので、評価制度・等級制度・報酬制度が連動していること、またそれらをスタッフが理解していることは重要です。

⑤評価指標が古い・現実に即していない

<失敗例>
ある歯科医院の人事評価制度では、スタッフの医院への貢献度を「業績」のみで評価している。しかしながら、職種(歯科衛生士や歯科助手、受付など)やポジションごとに目標や基準が異なるため、高評価をもらいやすい人ともらいにくい人に差が出ており、不公平感を感じているスタッフもいる。

昨今は、成果のみに注目した人事評価よりも「どんな役割を担ったか」という行動(プロセス)に注目した評価制度を導入する職場が増加しています。
今の若い世代にとって、成果主義の評価制度は「古い」という認識が生まれつつありますので、プロセスへの評価がない場合は不満を抱かれるかもしれません。

また、 評価指標が昔からずっと改定されていない医院も多いでしょう。 評価指標が古いままで、「今の現場では実現が極めて困難」など、医院の実態に即していなければ不満の原因となり得ます。

一方、従来の評価制度では「上司が部下を評価する」のが一般的でしたが、「一般のスタッフからの評価が反映されない」ことに不満を持つ人も増えています。
このようなトレンドの変化より、評価指標や実施方法について、今の医院に適したものであるかどうかを見直すことが重要です。

人事評価制度の不満を放置すると発生する問題

スタッフの人事評価制度への不満を放置すると、どのような問題が生じるのでしょうか。
起こり得る問題を3つ紹介します。

①スタッフのモチベーション・生産性の低下

まず、不満を抱えているスタッフのモチベーションが低下します。
頑張って働いても評価されないなら無駄だ」「どのみち変わらないなら、必要最低限の労力しか使いたくない」といった具合に、不満がスタッフの意欲を損なわせ、その結果生産性が低下していきます。

生産性が低下すると成果も出にくくなるため、引き続き良い評価をもらえず……といった感じに負のスパイラルに陥ってしまいます。

また、不満やモチベーションは伝染するものです。
ひとりのスタッフが不満を持つと、潜在的に同じような不満を抱えていたスタッフたちが同調し、職場内での「人事制度が不満」という思いが増幅していきます。

結果として、組織としての雰囲気・チームワークも悪化し、医院の質や経営効率が下がることになります。

②退職率の増加

人事評価制度への不満を放置していると、自分自身が正当に評価される職場への転職を目指す人が増加します。特に優秀な人ほど、その傾向が見受けられます。

優秀な人材の退職は医院にとって大きな損失であり、その後の採用コストや育成コストなど新たな費用も発生させることになります。

③訴訟リスク

法的に不公平な人事評価は、訴訟に発展する可能性があります。
過去判例では、不当な人事評価に対して不法行為が認められたケースも多く存在します。

例えば、以下のような人事評価は公正さを欠くと判断されやすいため注意が必要です。

  • 性別、学歴、家庭事情(結婚しているか、子どもはいるか)などの属人的要素を基準に一律的に低い評価を与える
  • 評価者の主観や感情が混じっている(性格が合わない等)

万が一民事訴訟を提議された場合、その医院は賠償金を支払うだけでなく、社会的評判や医院のイメージを大きく下げてしまいます。

人事評価制度に対する不満の対処法

人事評価制度への不満を解決するための対処法を4つ紹介します。

①評価基準を明確にして全スタッフに公開する

人事評価制度に対する不満で最も多い理由が「評価基準が不明瞭」であることでした。
まず、一般的に人事評価の評価基準は、仕事の業績を評価する「業績評価」、スタッフの職務能力やスキルを評価する「能力評価」、仕事に対する姿勢やプロセスを評価する「情意評価」の3要素で構成されます。

<業績評価>
医院への貢献度を指し、担当患者数、リコール率、自費診療点数などで評価します。数値目標を設定し、その達成度合いで判定する方法が一般的です。

<能力評価>
職務を遂行するうえで必要な知識やスキルを評価します。「治療手順を正確に理解しているか」「治療技術や予防方法の説明ができるか」といった基準で評価が行われます。

<情意評価>
本人の意欲、姿勢などのメンタル面を指し、「規律性」「責任性」「協調性」「積極性」といった要素に着目して評価します。「他スタッフとの協力ができているか」「患者さんに対して挨拶・礼儀ができているか」のような項目で評価が行われます。

このとき、業績評価のように数値で表せる評価は明確な基準を設けやすいですが、能力評価や情意評価のような定性的な評価においては評価基準の設定に工夫が必要です。
例えば、評価基準に5段階のランクを設け、期待通りであれば「3」、期待を上回れば「1または2」、期待を下回れば「4または5」とする方法があります。

また、こうして定めた評価基準は全スタッフに公開し、人事評価制度の透明性を保ちましょう
評価基準が公開されていれば、スタッフもそれを目標にして頑張ることができるでしょう。

なお、人事評価制度を公開する際には、評価制度と合わせて等級制度・報酬制度もはっきりと示すことが大切です。
スタッフにとって「評価の結果がどのように報酬に反映されるのか」はとても重要なポイントであり、モチベーションの源泉となります。

②評価者の教育を行う

評価者によって評価結果に違いが出てしまうことを「評価エラー」と呼びますが、評価基準が明確であっても、評価者教育が不十分だと評価エラーは起こります。

評価者教育は、評価制度の目的や評価基準の理解を深めるとともに、評価者が陥りやすい評価エラーを防ぐなど、人事評価方法を訓練するものです。

評価者教育においては、評価者用のマニュアルを作成して研修を行うのがよいでしょう。
どのような場合に評価エラーが起きやすいかなどをレクチャーし、評価する側の成長を促すことで、組織全体で正しい評価が行われるよう導きましょう。

③評価にまつわるコミュニケーションを行う

人事評価制度は、評価者が評価を実施して終わりでは意味がありません。
評価結果をスタッフに伝え、評価理由を面談などで丁寧に説明することで、スタッフの不満も解消されます。
また、評価者である上司もスタッフが評価結果をどう捉えているのかを把握することができ、相互理解のきっかけとなるでしょう。

評価にまつわるコミュニケーションを丁寧に行うことで、スタッフの課題が抽出され、今後の成長を促すことができます。
なお、評価が低かったスタッフにおいては、モチベーションが低下する可能性もあるため、仕事に対しての意欲を取り戻せるような助言も必要です。

④医院の体制に合った人事評価制度を制定する

人事評価制度は、時代や医院の現状に合った内容で制定する必要があります。
評価基準が昔から変わっていない場合は、一度内容を見直してみましょう。

参考として、昨今注目を集めている評価制度である360度評価コンピテンシー評価を紹介します。

<360度評価>
評価対象者に対して、上司だけでなく、同僚、部下など立場の異なる複数人のスタッフが、多面的に評価を行う評価方法です。
あらゆる視点から業績・能力・情意の評価を行うため、評価の「公平さ」や「客観性」が高まり、「自己評価」と「他者評価」とのギャップを知ることもできます。

<コンピテンシー評価>
医院が理想とするスタッフ(歯科衛生士・歯科助手・受付・事務など)のモデルを設計して評価基準を設定する方法です。
現場に即した具体的で現実的な評価基準となるため、わかりやすく効率的な人材育成ができます。
モデルの設計は、院長先生が思う「できるスタッフ」のイメージを明確化する機会にもなるでしょう。

人事評価制度の不満へ対処する際の注意点

最後に、人事評価制度の不満へ対処する際の注意点をお伝えします。

①クレーマーに振り回されない

評価制度を設計する上で、スタッフの声に耳を傾けることは重要ですが、中には不満を言うこと自体が目的になっている人(「クレーマー」や「モンスター社員」と呼ばれます)もいます。
このような、一部のクレーマーの不満に振り回されて、医院としての軸がブレないようにしましょう。

人事評価制度を設計する側は、「真の不満の声」と「クレーマーの声」を正しく聞き分けるスキルを身につけていくことが重要です。
そのためにも、評価にまつわるコミュニケーションの機会を大切にしていきましょう。

②スタッフの満足度上昇のみを目的としない

基本的に人事評価制度は、医院の業績に貢献したスタッフは報酬が上がり、そうでないスタッフは下がるという仕組みです。
よって、従業員の満足度のみを意識して人事評価制度を改革すると、業績とのバランスが取れなくなるリスクが出てきます。

人事評価制度を検討する際は、組織にとってマイナスとなる不満は排除すべきですが、スタッフの満足度上昇のみを目的としないよう、大局的な視点で考えるようにしましょう。

人事評価制度の不満軽減を通して医院の成長に繋げましょう

人事評価制度の不満の原因に着目してみると、今までとは違った視点で、医院を見つめ直すことができます。
不満軽減を通してスタッフのモチベーション・生産性を高め、医院の成長に繋げましょう。

人事評価制度を見直して改善したら、採用活動の際にもアピールしていくとよいでしょう。

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