歯科医療において、スムーズに診療を進め、患者様から支持のある安定した医院を目指すなら、スタッフの協力が必要です。
長く勤務して欲しいと思っているけど、採用できてもなかなか続かないんだよね…
スタッフが働きやすい環境を作るためには、まずスタッフが何を考えているのかを知る必要があります!
とはいえ、日々の診療の中でスタッフに直接聞くのは難しいかもしれません。
そこで今回は、貴院の課題を可視化し解決する上で役立つ「エンゲージメント調査」という方法をご紹介します。
スタッフの離職を減らして、安定した医院を作りたいとお考えの先生方は、ぜひご一読ください!
エンゲージメント調査って何?
エンゲージメントは、誓約や約束という意味の言葉で、人事関連で使われる際は「社員の会社に対する愛着心」という意味になります。
歯科医院であれば、愛社精神・一体感などの意味を含んだ「従業員エンゲージメント」と「ワークエンゲージメント」の2つの人事用語が使われます。
ワークエンゲージメントは、2019年に厚生労働省より公表された「令和元年版労働経済の分析」によると「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態として、以下の3つが揃った状態」と定義されています。
- 「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)
- 「仕事に誇りとやりがいを感じている」(熱意)
- 「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)
似た言葉に「従業員満足度」がありますが、これは給料や待遇、仕事面など様々な面での満足度を表したもので「エンゲージメント調査」とは別の意味になります。
エンゲージメント調査は従業員満足度とは異なり、歯科医院とスタッフの関係性や生産性を把握するための方法です。
エンゲージメント調査で何がわかる?
エンゲージメント調査は自院のエンゲージメントのレベルを調べるためにスタッフに対して行う調査です。
この調査をすることで、医院が抱える課題や問題点、スタッフが抱えている不満や悩みなどを把握することができます。
エンゲージメント調査を⾏う理由は?
エンゲージメント調査の目的は、一言にまとめると「課題を洗い出して解決することにより、優秀な人材を長く確保する」ためです。
ここではエンゲージ調査の目的として、具体的に3つあげていきます。
1.医院の課題を可視化する
エンゲージメント向上のための対策を立てるには、まず課題を見つけなければなりません。
そもそも経営者と従業員では、考え方も感じ方も異なります。
そこでエンゲージメント調査を行い、感じている不満や仕事での改善点などの課題を見つけ出すことが重要です。
2.施策の費用対効果の測定や再評価
エンゲージメント調査を繰り返し行うことで、施策の効果やスタッフのエンゲージメントが向上しているか確認できます。
定期的に実施することにより、自院にはどのような施策が効果的なのか、費用をかけずに生産性をあげる方法は何か、ということも徐々に分かるようになります。
3.離職率や退職理由の把握
「スタッフが入職しても長く続かない」とお悩みの先生もいると思います。実際のところ、退職する際に本当の理由を話してくれているスタッフはどれほどいるでしょうか?
余程深い信頼関係が築けていない限り、円満退職するために無難な理由を伝える方が多いのではないかと思います。
それでは、貴院が抱える本当の課題を把握することはできません。
普段からエンゲージメント調査を行うことで、定着率を上げるためのヒントが見えてきます。
現在、歯科医師や歯科衛生士が不足している歯科医院は少なくありません。
求人倍率が高く「募集をしても応募すらない」という医院も珍しくないのです。
人手不足になると、つい新しい人材確保に意識が向きがちになりますが、それ以前にスタッフが長く勤めてくれる職場環境を作ることも大切です。今いるスタッフが定着することで、職場の雰囲気が変わり、新しいスタッフの採用に繋がります。
エンゲージメント調査を行うべき医院は?
エンゲージメント調査を行った方が良いと言われても、導入すべきか悩む先生もいらっしゃると思います。 ここではエンゲージメント調査を行った方が良い医院の特徴をご紹介していきます。
スタッフの離職率が高い
離職率が高い医院では、従業員エンゲージメントが低くなっている可能性があります。
- 離職が多いので業務量に対してスタッフが少なくなり負担が増えている
- 新人スタッフに業務を教えてもすぐに辞めてしまうので、時間などのコストが無駄になってしまう
- 給与が上がらないので仕事へのやりがいを感じなくなっている
など離職率が増えることで悪循環になってしまいます。
そうしたスタッフが増えると、医院全体の士気が下がり、さらに従業員エンゲージメントが低下してしまいます。
業績の低迷が続いている
どのような対策を行なっても業績がなかなか上がらない時も、エンゲージメント調査を行なった方が良いと考えられます。
先生やスタッフ間で適切なコミュニケーションや育成が行われていないため、ノウハウが身に付かず生産性が低下している恐れがあります。
医院全体の問題点や課題が見えていなければ、どれだけ対策をしても現状は変わりません。 一度立ち止まり、医院内での課題がないかヒアリングを実施する必要があります。
スタッフの人事評価が適切に行われていない
「どれだけ頑張っても評価されない環境」は、スタッフのモチベーションの低下や医院への不信感に繋がってしまいます。
公平性のある評価ができているか、評価者とスタッフの間に評価のずれがないかを把握するためにも、エンゲージメント調査が重要になります。
エンゲージメント調査のメリット
エンゲージメント調査を行うことで、一体どのようなメリットが得られるのでしょうか。
メリットとしてあげられるものには、次のようなものがあります。
1.スタッフの定着率向上と離職率低下
エンゲージメント調査では、スタッフが感じている医院への不満や思いを知ることができます。
自院の問題点を改善することにより、スタッフにとって居心地の良い職場環境を作ることができます。
結果として「スタッフの定着率が高くなる」メリットがあります。
さらに離職率も低下することにより、新たな人材を確保するための費用もかからなくなってきます。
また新人教育に費やす時間も発生しないため、効率的に時間を使うことができます。
2.スタッフのモチベーション向上と医院の売上げアップ
仕事を効率的に行う上で、モチベーションは欠かせません。
職場環境を整えることで、スタッフにとって働きやすい歯科医院になり、仕事へのモチベーションも向上します。
医院を良くするために主体的に仕事に取り組んだり、作業効率が上がることで、生産性も高くなります。
その結果、売上げ向上や残業時間の削減が見込めるようになります。
3.患者満足度の向上と増患
スタッフのモチベーションが上がると、患者様への対応も変わります。
心に余裕がある時は、人に対してより良い対応ができるものではないでしょうか?
患者様に選ばれるためには診療はもちろん、いかに良い対応ができるか?という点も重要な要素です。スタッフが気持ちよく働けることにより、患者様への対応の質が上がると、結果として増患に繋がります。
このようにエンゲージメント調査には、経営者にとっても嬉しいメリットが沢山あります。
エンゲージメント調査のデメリット
では反対に、エンゲージメント調査のデメリットにはどのようなものがあるのでしょうか。
一つ目は、質問の作成や分析に時間や費用がかかることです。これらはエンゲージメント調査を行う方法によって異なるため、詳しくは次項で解説いたします。
二つ目は、質問の数によってスタッフの負担になる可能性がある、ということです。特に診療に追われているような医院の場合、エンゲージメント調査の時間をいつ設けるか、という点に関しても考慮すべきでしょう。
ここにあげたデメリットを短期的に考えると、目の前のデメリットが大きく、あまり有効ではないのでは、と感じられるかもしれません。
しかし既にお分かりのように、エンゲージメント調査を行うことにより得られるメリットは多くあります。長期的に考えれば、医院にとってプラスになる可能性は高いでしょう。
具体的にどんな調査をするの?
一般的にエンゲージメント調査はアンケート形式で、50〜100問ほどの質問で行います。
6カ月〜1年に一回を目安に継続して行うことが望ましいでしょう。
実施の仕方は自院で質問を用意する方法と、外注する方法の2つです。
1.自院で用意する場合
質問を用意する手間はかかりますが、自由に設定することができます。
アンケート終了後は、集計や分析を自分で行うことになります。
2.外注する場合(業者に依頼する)
費用はかかりますが、質問作成や集計・分析といった手間がありません。
また、分析結果についても客観的な判断が可能で、より精度が高いと思われます。
どちらもメリット・デメリットがありますが、エンゲージメント調査は継続して実施することで初めて効果が期待できます。
実際に行う場合は、その点も考慮した上で検討しましょう!
エンゲージメント調査の具体的な指標
エンゲージメント調査を行うに当たり、以下の3つの指標を押さえておく必要があります。
ここで確認しておきましょう。
1.総合指標
スタッフの医院への評価を計測するための指標です。
「eNPS・総合満足度・継続勤務意向」の3つで構成されます。
友人などの親しい人に就職先として勧められるか、どのくらい愛社精神を持っているのか、これからも自院で働きたいか、などを調査・測定します。
2.ワークエンゲージメント指標
スタッフの仕事への熱意を計測するための指標で、冒頭でご紹介した「熱意・活力・没頭」という3つの視点から見ていきます。
やりがいを感じられているか、楽しく仕事に取り組めているかなどを把握します。
3.エンゲージメントドライバー指標
スタッフが医院に貢献していると感じられているかを計測するための指標です。
仕事に満足しているかどうか、その満足度を知ることができます。
エンゲージメント向上のために特に重要な指標です。
エンゲージメント調査を⾏う際の注意点
エンゲージメント調査を行う際に、注意すべき点がいくつかあります。
まずは目的を明確にし、自院にとってのエンゲージメントの定義を確認しておくことです。
これらはスタッフにも共有し、理解を得た上でエンゲージメント調査を実施するようにしてください。
もし伝わらないまま行ってしまうと、調査結果の精度に影響する可能性があります。
次にアンケートを実施する際の注意点として「スタッフの負担にならずに行えるようにする」ことです。
例えば、勤務時間内または勤務時間外のどちらで行うのか、質問の数が多いか少ないかなどによっても、負担は大きく変わります。
できるだけ正確に調査結果を得られるよう、スタッフが受けやすい状況作りを心がけましょう。
最後に、実施する際は予め実施する日や集計・分析を行う期日を決めておき、予定通りに行ってください。
実施後に見えてきた課題や施策は、必ずスタッフにも報告しましょう。
「自分が伝えた内容が反映されている」と感じられると、調査や仕事に対しての姿勢も前向きになり、今後の調査への協力も得やすくなるはずです。
調査するための効果的な質問集
エンゲージメント調査の質問項目は、アメリカの大手調査会社「ギャラップ社」のものが有名です。
ギャラップ社は、30年以上に渡って1,700万人を超える従業員に調査を行ってきました。ここでは、その中で特に適していると思われる12個の質問をご紹介します。
Q1.仕事で自分に何が期待されているか知っていますか?
Q2.仕事を正しく行うために必要な機材や環境があると思いますか?
Q3.毎日ベストを尽くせる機会があると感じていますか?
Q4.過去7日間で仕事を認められたり褒められたりしましたか?
Q5.上司や職場の人が気にかけてくれていると感じますか?
Q6.成長を後押ししてくれる存在がいますか?
Q7.職場で自分の意見が考慮されていると思いますか?
Q8.医院の使命や目標のために自分の仕事は重要だと感じますか?
Q9.同僚は質の高い仕事を目指していますか?
Q10.職場に気心の知れた同僚がいますか?
Q11.過去6ヵ月の間に職場の人が自分の進歩について話してくれましたか?
Q12.過去1年で学びや成長の機会がありましたか?
https://www.gallup.com/workplace/266822/engaged-employees-differently.aspx
出典:ギャラップ社HPより
課題が⾒えたら改善しよう
エンゲージメント調査により医院の課題が見えたら、早速施策を考えましょう。課題を知って満足するだけでは、結果に繋がりません。
また定期的にエンゲージメント調査を行い、立案した施策によって課題が改善されているかどうかの確認も必ず行ってください。
もし改善が見られない場合は、施策を再検討する必要があります。
PDCAを意識して、有効にエンゲージメント調査を活用してください。
エンゲージメント調査の結果を有効活用するためのポイント
エンゲージメント調査結果は、さまざまなことに活用することができます。
医院全体の評価だけではなく、部署ごとの指標も得ることができます。人事評価制度の見直しなど全体的な改善だけではなく、治療器具や休憩室の設備の改善など、細かな施策を実行するときにも役立ちます。
エンゲージメントを⾼めるための施策例
ここでは具体的な施策の例をいくつかご紹介します。
ぜひ貴院のエンゲージメントを高めるための参考にしてください。
1.方針・ビジョンを共有する
同じ方針・ビジョンを持っていないと、医院とスタッフが同じ方向へ向かうことは難しいです。
研修や面談の時間、勉強会を行うなど、双方が同じ目的を持ち仕事に携われるようにしましょう!
また共通の意識があることで、医院の一体感も生まれ、より仕事へのやりがいを感じてもらいやすくなります。
2.院内のコミュニケーションを活性化する
退職理由にあげられる一つとして「人間関係」があります。これは就職・転職する際に求職者に重視される部分でもあります。
スタッフに居心地の良さを感じてもらったり、円滑に仕事を進めて行く上では非常に重要です。
食事会やイベントを企画する、時々医院全体でランチへ行くなどして、コミュニケーションの取れる場を設けるようにしましょう。
また、何かあった際には気軽に相談できる雰囲気作りも大切です。
3.スキル・キャリアアップ支援を行う
仕事を続ける上で「自己成長」を感じられるかどうかは大切なポイントです。
セミナーや講習会への参加支援のほか、院内での勉強会の実施なども積極的に行っていきましょう。
さらにスタッフに「仕事を任せる」ことにも大きな意味があります。
「仕事を任せてもらえている」と思えることは、自分が必要とされていることややりがいを感じる上で欠かせないものだからです。
4.仕事とプライベートが両立できる環境を整える
充実したプライベートを過ごすことは、リフレッシュになり仕事への意欲を高めることに繋がります。
そのため残業を極力なくしたり、福利厚生を充実させるなど、プライベートの時間もしっかり確保できる体制にしている歯科医院も増えてきています。
仕事とプライベートが両立できる環境は、スタッフにとって働きやすさの一つです。
5.人事評価制度を見直す
もしスタッフが「頑張っても評価されない」と感じているなら、モチベーションが低下してしまう可能性が大きいでしょう。
評価に不満を感じているスタッフが多い場合は、評価制度の見直しが必要かもしれません。
また客観的な評価ができる評価基準を明確に示しておくことも、公平性を保つために有効です。
エンゲージメント調査で人材確保しやすい医院へ
エンゲージメント調査は、医院改革を検討している先生方だけではなく、これから新しい人材の雇用を考えている先生にもメリットのあるものです。
もし「求人募集をかけていてもなかなか人材が良い人材が見つからない」という場合は、エンゲージメント調査を行ってみるのも良いかもしれません。
予め職場環境を整えておくことで、今いるスタッフはもちろん、新しい人材のモチベーションや定着率を上げることに繋がります。
見えない課題を解決し、生産性の高い医院経営をしていくためにも、役立つ方法だと言えるでしょう。
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