歯科医院を活気づけ、質や業績をアップさせるためには、スタッフのモチベーションが必要不可欠です。今回はスタッフのモチベーション低下にお困りの先生方に向けて、その原因、またモチベーションを高めるメリットや方法を解説します。ぜひ参考になさってください。
医院を盛り上げるにはスタッフのモチベーションが重要
スタッフのモチベーションが重要な理由は何でしょうか。なぜなら、歯科医院で働くスタッフのモチベーションは「医院の質や評判・業績」にも影響するからです。
モチベーションとよく似た言葉に「やる気」がありますが、これらは同じものではありません。そもそもモチベーションとは何なのか、最初に確認しておきましょう。
モチベーションとは
モチベーションとは「動機付け」のことを指します。目的(欲求)を果たすための動機・理由を与えることです。対して「やる気」は、〜しようという意欲や気持ちを指しています。
後者はその時の感情によって左右されるため、継続して安定した仕事を望む場合は心許ないものです。そこで、やる気の元となる「動機付け」が必要になります。この2つの違いを理解した上で、モチベーションが低下するとどのようなデメリットがあるのか、具体的に考えていきましょう。
モチベーションが下がることで生じるデメリット
①生産性の低下
仕事の生産性はモチベーションに左右されます。有能なスタッフがいたとしても、モチベーションが低い状態では、高い生産性は期待できないでしょう。
②離職率の増加
仕事が楽しいと感じている場合、退職を考えることは少ないと思います。しかし、そう感じられない場合はどうでしょうか。自分の存在価値がわからなくなったり、もっと他に良いところがあるのではないかと転職を考えたりと、ついマイナスな思考になってしまいがちです。そのためモチベーションが下がると、離職率も増加してしまうのです。
③患者満足度の低下
スタッフのモチベーションは、患者様の満足度にも関係しています。患者様への対応や診療の質などは、モチベーションが高いか低いかによっても変わるからです。
④医院の雰囲気が悪くなる
スタッフのモチベーションが低い状態にあると、診療がスムーズに進まなくなる可能性もあります。準備や治療・処置などのスピードが低下するほか、スタッフ同士のコミュニケーションも不足しがちです。それらがミスの原因になることもあるでしょう。
このような状況はスタッフにとってストレスになり、結果として医院全体の雰囲気を悪くしかねません。また、モチベーションの低いスタッフが一部いる場合も同様です。周りのスタッフの仕事量が増加するなど負担が大きくなることで、ストレスや不満を抱えてしまうからです。
モチベーションの低下は、このように多くのデメリットを生じさせます。できるだけモチベーションは高く保ちたいですね。
モチベーションを上げることで得られるメリット
では反対に、スタッフのモチベーションを上げることで得られるメリットとは何でしょうか。主なメリットは次の通りです。
①離職率の低下
モチベーションが向上している時、人は離職しようとは思わないものです。きっとほとんどの方は、仕事や職場環境に満足している状態で退職や転職は考えませんよね。離職率が低下すると、スタッフの採用に必要な経費も削減できます。
さらに新人が入社した場合は、一定期間教育に時間を要したり、他のスタッフにその負担を増やしてしまうことにもなるでしょう。離職率の低下は、時間や他のスタッフにとってもメリットがあります。
②診療の質・生産性の向上
スタッフが満足した状態で働けると、それぞれの能力を発揮しやすくなります。スタッフ間のコミュニケーションが円滑になり、報連相の徹底にも繋がるでしょう。モチベーションが高い状態では、スタッフからより良い医院にするための提案などもしてもらいやすくなります。結果として、診療の質や生産性が向上する可能性が高くなります。
③患者満足度の向上
スタッフは患者様と近い立場にいます。自分とは違う視点での提案を取り入れることで、患者の医院に対する満足度がアップする可能性もあります。また提案を取り入れられたスタッフは「認められた」と感じることができ、モチベーションが維持されるでしょう。
④医院へのエンゲージメントが高まる
「頑張れば評価してもらえる」「意見を尊重してくれる」「スキルアップを応援してくれる」などとスタッフが感じられることで、モチベーションは向上します。しかしそれだけではなく、医院への信頼感や「この医院を良くするために何かしたい」という気持ちにも繋がります。
⑤チームとして団結した診療ができる
スタッフ間のコミュニケーションが円滑になり、報連相もスムーズになります。医院全体が一つのチームとして団結し、より良い診療が行えるようになるでしょう。
モチベーションが下がってしまう理由
ここまで「モチベーションが低下することで生じるデメリット・高まることで得られるメリット」について解説してきました。ここからは、モチベーションを低下させてしまう原因を5つあげていきます。次の中に、あなたの医院に当てはまるものはありませんか?ぜひチェックしてみてください。
①業務内容や量などに不満を感じている
歯科医院の経営者として「あれもこれもやって欲しい」と思うことはきっと沢山あると思います。でも、一度立ち止まって思い返してみてください。
業務量は医院の規模に適したものでしょうか。ギリギリのスタッフ数で、余裕のない診療を行ったりしていませんか。また二転三転するような指示出しや、スタッフ一人ひとりの実力を大きく超えるような仕事を求め過ぎることにも注意が必要です。
こうした日々の小さな不満は、積もり積もってスタッフのモチベーションを低下させてしまいます。
②人間関係にストレスを感じている
歯科医院の退職理由の中で「人間関係」は上位を占めています。人間関係にストレスを感じていると、円滑なコミュニケーションを妨げる原因となったり、集中して診療を行うことができなくなってしまったりするでしょう。日頃からコミュニケーションを積極的にとり、良い関係を築くよう心がけたいものです。
③評価制度に満足していない
努力や結果を出したことを評価してもらえないと、人はやる気がなくなってしまうものです。評価制度は、客観的に図ることのできるものでしょうか。
具体的に何をどの程度求められているのか、誰がみてもわかるような評価制度を設けておくことをお勧めします。人によって価値観や基準は異なるため、明確な指標がない場合はすれ違いやスタッフのモチベーション低下の原因となりかねないでしょう。
④スキルアップをサポートする環境が整っていない
ある程度の業務がこなせるようになると、毎日がマンネリ化しがちになります。教育制度がある、勉強会やセミナー参加などに参加しやすいなど、スタッフがスキルアップできる環境を整えておくことも大事です。
⑤意見が反映されない
より良い医院にするためにミーティングを行ったり、スタッフに意見を求めることもあるかもしれません。そのようにして得たスタッフの意見を、何らかの形で反映させていますか。
経営者とスタッフでは立場が違いますから、視点や考え方も異なります。もちろん採用できない意見もあって当然です。しかしそのままではないとしても、一部を取り入れたり得た意見をもとに何かを行うなど、何らかの形で「反映されたと感じさせる」ことが非常に大切です。
せっかく出した意見が何の役にも立っていないと感じると、だんだんとスタッフ達のモチベーションは下がり、以後何も提案してもらえなくなる可能性もあるので気を付けてください。
スタッフのモチベーションはどうやって上げる?
スタッフのモチベーションを上げたいと思う時に、前提として押さえておきたい考え方があります。ここをしっかり押さえておかないと、思うようにモチベーションを向上させられないこともあるかもしれません。ぜひご確認ください。
知っておくべきモチベーションを向上させるための考え方
モチベーションには、2つの種類があります。一つは「外発的動機づけ」と呼ばれるもので、ボーナスや給料のアップ、院内での役割を与えられるなど外的な要因がきっかけとなる場合です。二つ目は「内発的動機づけ」で、スタッフ自身の内部から意欲が生まれる状態を言います。例えば「仕事が楽しい」「やりがいがある」「もっと〜したい」などというものです。
前者の要因がきっかけの場合、そのモチベーションは一時的なものになることが多いと思われますが、後者の場合は持続的な傾向が高くなります。これらはどちらか一つに力を入れるのではなく、両者を上手く取り入れることでより効果が期待できるでしょう。
またご存知の方も多いと思いますが、心理学者であるアブラハム・マズローが提唱した「マズローの欲求5段階説」を参考に施策を考えるのも良いかもしれません。これは人間の欲求を5段階で表したもので、基本的に人は「生理的・安全・社会的・承認・自己実現欲求」の順で一つずつ欲求を満たそうとするという心理行動を示しています。
モチベーションを上げるために効果的な6つの方法
上記にあげたモチベーション低下の原因などから、あなたの医院で課題となることは見つかったでしょうか。ここからは、実際にモチベーションを上げるためにできる方法を6つご紹介していきます。
①労働条件の見直し
近年、スタッフが働きやすいように労働条件を整えている歯科医院が増えています。ワークライフバランスが重視され「残業時間が少ない・有給休暇が取りやすい・週休3日制」など仕事だけではなくプライベートの時間もしっかり取れるような環境です。他にも福利厚生の充実や産休・育休制度の導入など、医院の魅力のアップを図っている歯科医院も多くあります。
②コミュニケーションの活性化
日々の診療に追われているとコミュニケーションが疎かになりがちですが、コミュニケーションが十分に取れていないと、ちょっとしたすれ違いや不満も生じやすくなるものです。そのため良好な人間関係を保てるように、食事会や社員旅行などを積極的に行っている医院は多くあります。
しかし実際に大切なのは、ただ一緒の時間を過ごすことではありません。仕事上の悩みや不満などを気兼ねなく話せる機会や環境整備が必要でしょう。先輩スタッフや上司への相談がしやすい状況を作っておくこともとても大切です。
③自分で考える機会を与える
一方的に指示を与えて動いてもらうのではなく、スタッフ自身が考えて行動する機会を作るようにしましょう。自発的な行動習慣が身に付いていない場合、こちらから提案をしたり、ヒントを与えるなどサポートが必要になるかもしれません。
最初は手が掛かるかもしれませんが、長い目で考えるとスタッフに責任感やモチベーションを持たせる意味で大切なことです。先ほどあげた目標設定や問題の解決策の提案など、スタッフが積極的に行えるような環境を作っていきましょう。
④自己肯定感を満たせる機会を作る
小さな成功体験を積むことで、自己肯定感が満たされやすくなります。スタッフが入社して間もない場合や、求めるほどの能力がまだないと感じる場合、何かを任せるというのは難しく感じるかもしれません。しかしそこで制限してしまうと、スタッフのモチベーションはいつまで経っても上がりません。
最初は手が掛かるかもしれませんが、長い目で考えるとスタッフに責任感やモチベーションを持たせる意味で大切なことです。先ほどあげた目標設定や問題の解決策の提案など、スタッフが積極的に行えるような環境を作っていきましょう。
例えば、材料の在庫管理を任せる、院内ポップを作成するなどの役割を与えるのはどうでしょうか。
また技術面においても「自信はないけれどできるようになりたい」と思っていることは多いものです。まだ任せられないからと何もさせないのではなく、先輩スタッフに教えてもらう、フォローしてもらうなどしてスキルアップできる環境を与えましょう。セミナー参加費用の支援なども効果的です。
⑤スタッフの意見を尊重する
モチベーションが下がってしまう理由や患者満足度のところでもあげたように、スタッフの意見を取り入れることは重要です。自ら考えた案が採用され、結果として問題が改善されることは承認欲求を満たすことや成功体験にもなりますし、意欲を引き出す機会にもなるでしょう。
⑥評価制度の改善
例えば「院長が仕事の様子をみて評価できると思ったら」などの曖昧な評価基準では、スタッフは何をどう頑張れば良いのかわかりません。具体的に何が求められていて、何ができれば評価してもらえるのか、客観的にみてわかるような評価制度を設けましょう。
そうすることで、明確な目標が立てやすくなります。スタッフ一人ひとりと対話する機会を設け、次の評価までに「何をどの程度できるようになることを目指すか」など決めるのも良いでしょう。きちんと評価してもらえることで「承認欲求」を満たすこともでき、課題がある場合はそれも把握しやすくなります。
ここで紹介した6つの方法を用いて職場環境を整えることは、スタッフにとってメリットがあるだけではなく、医院全体をより良くし生産性を上げるためにも役立ってくれるでしょう。
3つのポイントでモチベーションを維持しよう
せっかく向上させたモチベーションも、人間ですから常に100%維持し続けることは困難です。できるだけ持続させるために、次のようなことを意識してみてください。
・医院のビジョンを共有し、明確な目標を持たせる
「何を大切にしていて、何を目指しているのか」など医院のビジョンをスタッフと共有するようにしましょう。ここを理解してもらえていないと、スタッフが自ら動いたり提案したりすることが難しくなってしまいます。自分とは異なる価値観を持った人間であることを忘れず、しっかり伝えるようにしてください。
・定期的に振り返る機会を設け、改善策を見つける
具体的に立てた目標が達成できているか、できていないとしたら課題は何なのか、定期的に見直す必要があります。達成できている場合はさらなる目標を立て、改善が必要な場合は改善策を明確にすることで行動を続けやすくなります。
・仕事にメリハリをつける
ずっと気を張り動いていては疲れてしまうものです。たまには残業なく帰れる日を作る、まとまった休暇を与える、有給休暇はきちんと取れるようにするなどメリハリをつけることも大切です。プライベートな時間が充実していると、仕事のモチベーションも自然と上がりやすくなるでしょう。
歯科医院は小規模であることが多いですが、それでもスタッフのモチベーションをアップさせるために必要なことは、会社に所属している人と同じです。ここでは実際に大手企業で行われている成功事例をいくつか紹介します。
歯科医院でも導入できる!大手企業の成功事例を紹介
事例1)
A社では従業員自らアイデアを出し合い、納得できる目標を共有してもらうという施策を行いました。自分たちで設定した目標であるため、自発的で積極的な行動に繋がっています。
事例2)
B社では多様な働き方を尊重し、ワークライフバランスを支える体制を整えました。他に、誕生日会や部活動支援などにより社内のコミュニケーションの活性化を図っています。
事例3)
C社では、1日8時間勤務の会社が多い中、6時間労働にする施策を行っています。1日の労働時間を減らすことでプライベートも充実させやすい環境です。これが「企業の魅力」となり、モチベーションアップにも繋がっています。
事例4)
D社では、昇進・昇格、待遇を職能資格制度によって決定する取り組みが行われています。
事例5)
E社では、キャリアアップを考える従業員に向けて「自己啓発制度」を設けています。他にもキャリア自己申告制度を年1回実施し、希望部署への異動申請も可能にしています。
これらの成功事例は一般企業のものですが、ぜひ歯科医院に置き換えて考えてみてください。
例えば、ワークライフバランスや労働時間などの条件面での施策はそのまま参考になるでしょう。また職の資格制度に関しては、認定資格へのチャレンジを支援し、取得した場合は給与や待遇に反映させるという形で取り入れることもできます。
さらに今後のキャリアについて希望を聞いたり、話し合う機会を設けるというのも良いかもしれません。スタッフが自分のキャリアを考えるきっかけになるとともに、モチベーションの向上にも繋がるでしょう。
まとめ
いかがでしたか?スタッフのモチベーションを上げる方法は沢山ありますが、ただ闇雲に行っても思うような結果は得られません。あなたの医院のスタッフが「どのようなことを求めているか」を予め把握した上で、対応していく必要があります。
現在、歯科業界は深刻な人材不足に陥っています。新しい人が入ってもすぐ辞めてしまう、スタッフが定着しないなどお悩みの方は、まずモチベーションを下げる理由に当てはまることがないか見直してみてください。
そして忘れてはならないことは、新規採用の前に既にいるスタッフのモチベーションを高めるべきであるということです。スタッフが定着しなければ、採用のためのコストも時間もかかり続けます。事前に医院の環境を整えた上で新しい人材を確保すれば、既存スタッフにとってだけではなく、新規スタッフにとっても居心地の良い環境を作ることが可能になるのです。
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