歯科診療で毎日のように行われているSRP(スケーリング・ルートプレーニング)。
歯科衛生士業務の基本とも言える技術です。
院長先生にとっては「衛生士ならSRPができて当然だ」と考えがちですが、中にはSRPができない歯科衛生士もいます。
SRPができない、とはどういうことなのでしょうか。
衛生士不足の中、そういった方から応募があって迷っている先生方に、対処法を伝授いたします。
SRPができない歯科衛生士ってどんな人?
歯科衛生士がSRPを習得できていない理由は3つに分けられます。
理由1:前職の歯科医院がSRPを行わない方針だった
ご存知だとは思いますが、SRPを積極的に行わない方針の歯科医院もあります。
そういったクリニックには当然学ぶための教育体制がありません。
習得したい場合は自費でセミナーや研修を受講しなければならないので、金額と時間の面で諦めてしまう衛生士も多いでしょう。
また、習得できても自己流のやり方が身についてしまう危険性があります。
そんな状況に危機感を覚え、スキルアップのために転職に踏み切る衛生士もいるようです。
理由2:矯正専門の歯科医院で働いていた
上記と似ていますが、矯正専門の歯科医院で働く衛生士の中には、SRPの技術がない方もいます。
特に新卒で入職し、SRPの経験が一度もないまま5年目を迎える…そんな方も珍しくありません。
「〇年目だから〇〇はできて当たり前」
目安として分かりやすいので、つい勤務年数で考えてしまいがちです。
ですが、技術レベルは過去に勤めていた医院によって大きく変わってきます。
理由3:子育てなどでブランクがある
歯科衛生士は女性が多い職業です。
国家資格で復職が簡単ということもあり、妊娠・出産で退職するスタッフがとても多いですよね。
そんな女性たちが復職を考えるのは、子どもが小学校に入学するタイミング。
だいたい6~9年とブランクが長いため、SRPだけでなく技術面全般に不安を覚える声がよく聞かれます。
「現役の時はできていたけど、今はできる!と自信を持って言えない…」
歯科治療の技術はどんどん発展していく中で、長いブランクを持つ衛生士は不安からつい「自信がありません」と発言することもあります。
SRPができない歯科衛生士の面接時の対応方法
さて、ここからはSRPができない衛生士が入職を希望している場合の対処法についてお伝えします。
SRPができない=即不採用はNG!
SRPができないからといって、即お断りをしていませんか?
実はそれはNGなんです。
医院の方針上、SRPが絶対に譲れない条件なのであれば仕方のないことです。
しかし、特に根拠はない・なんとなく嫌だ・〇年目なのにできないなんて…など、「なんとなくダメそうなイメージ」で不採用としているなら、とても危険です!
なぜかというと、将来大活躍できる人材を逃しているかもしれないから。
詳しくは後半でお伝えします。
その前に、その衛生士は本当にSRPができない人材なのでしょうのか?
本当の技術レベルを面接で見抜くコツを次から学んでいきましょう。
本当の技術レベルで判断する
「SRPの経験はありますか?」
「矯正歯科に勤めていたので、ありません…」
「そうですか…」
こんなやりとりをした覚えはありませんか?
よくある面接風景のように見えますが、「できません」と言われて諦めてしまうのは勿体無いです!
できる・できないで片付けず、本当の技術レベルをハッキリさせましょう。
具体的に何ができて何ができないのかを知ると、採用できる可能性も高まりますよ。
本当の技術レベルを知るための方法、それは作業を細分化することです。
一口に「できる」といってもその基準は人それぞれ。
- 衛生士学校で習ったことがある
- 自主的にセミナーを受講したことがある
- 患者さんに処置を行っていた
- 処置ができ、後輩育成もできる
人によっては、これらはすべて「できる」と言えるんです。
お互いの認識がすれ違ったままでは早期離職に繋がりやすく、危険です。
やるべきことは3つ。
- 面接の前までに作業を細かく分解する
- 何ができていれば合格ラインなのか?を事前に決めておく
- 当日はその項目に沿って質問する
コツは、作業の流れだけでなく色々なパターンを想定すること。
事前にきちんと準備をしておくことで、認識のズレを最小限に抑えることができます。
またこの時、セミナーや勉強会を受講する前向きな姿勢が見えるとさらに評価できますよね。
これは衛生士に限らず、一般的な求人採用でも有効な方法です。
採用に迷わないためにも、ぜひ一度お試しください。
SRPができない歯科衛生士を採用しても良いケース2つ
SRPができない歯科衛生士を採用しても大丈夫なのか、迷われている院長先生もいらっしゃると思います。
前の章でお伝えしたように、場合によってはSRPができない歯科衛生士を採用してももちろん大丈夫です!では、ではどのような場合に、SRPができない歯科衛生士を採用してもよいのでしょうか?
新人教育の環境が整っている
SRPができない歯科衛生士を採用する場合は院内の新人教育の環境を整える、または事前に見直す必要があります。
教育できる環境が整っていれば、入職した後にスキルアップを行うことができます。
しかし環境が整っていないまま採用してしまうと、先輩衛生士はどのような流れで教えていいか分からず、新人衛生士もどこを改善したら良いか分からない、という状況に陥ってしまいますよね。
その状況が続いてしまうとなかなか戦力として育たず、最悪の場合早期離職に繋がってしまいます。
効率よくスキルを身につけてもらうためにも、次の章でご紹介する新人教育の環境のポイントを見直してみましょう!
ポイント① SRPができる先輩歯科衛生士は在籍しているか?
SRPができる先輩歯科衛生士がいれば、ポイントの1つ目はクリア目前です!
手順の流れを下記のように
- 歯石の付着状態の確認ができる
- 歯石の状態によってどんな超音波スケーラーを選ぶと良いのかがわかる
など細かく分けて、その内容を新人の歯科衛生士に説明ができるか確認しましょう。
ポイント②新人教育の流れをマニュアル化できているか?
項目を細かく分けることで、新人衛生士のレベルに合わせたマニュアルを作成することができます。
手順やポイントなどをまとめたマニュアルを作成することで、以下のようなメリットが得られます。
- 次に何を教えたら良いかが分かるようになり、効率的にスキルアップできる
- コツなどの教え忘れ(伝え忘れ)を防ぐことができる
- 何度も見返して復習することができる
まだ体制が整っていなくても教えられる環境が作れるならば、上記でお伝えしたポイントを踏まえてSRP業務を含む新人教育マニュアルを作成することをお勧めします。
教育できる環境が準備できれば採用しよう
このように、指導できる環境が整っていれば自院で育成が可能になり、SRPができない歯科衛生士でも安心して採用ができるようになります。
初めから処置がうまくできる人はいませんよね。SRPが上手な衛生士も、頑張ってスキルを磨いていた頃があるはずです。
もちろん、スキルを持っている即戦力の衛生士を採用できればベストですが、歯科衛生士の有効求人倍率は20倍以上。採用難の状況が続いています。
今はまだ技術や経験が足りなくても、貴院の教育力で育てていくことにより、将来活躍する人材になれる可能性があります。長い目で見る必要はありますが、貴院の人材不足解消の一助になるかもしれませんよ。
SRPができなくても戦力になる
歯科衛生士の業務はSRPだけではありません。
そのほかの歯科予防処置、歯科保健指導などの主な業務から、矯正歯科・審美歯科での専門的な治療まで多岐にわたります。
実務で数年働いていた歯科衛生士であれば、他の業務と併行してマニュアルを使いSRPのスキルを伸ばしてもらうことも可能です。
また、新卒やブランクがある歯科衛生士の方から応募が来ても、人柄や素質を見て採用を行い、自院で活躍できる歯科衛生士に育てていくことができます。
次の章からは、スキルや経験だけではなく、その人の人柄や素質を見て採用を行う「ポテンシャル採用」についてご説明していきます。
スキルや経験がない人を採用したい、そんな場合はポテンシャル採用がおすすめ
ポテンシャル採用とは
経験や実績ではなく、求職者のポテンシャル(潜在能力)を評価し採用を決めるのがポテンシャル採用です。
これまでは、求職者の実績や経験を評価し即戦力を採用する方法が一般的でしたが
近年はこのポテンシャル採用を行う企業が増えてきています。
その理由として、若手の人材不足が挙げられます。
少子高齢化に伴う若者の減少に合わせ、働き手の高齢化により企業は深刻な人材不足に陥っています。そこで、人柄や素質(ポテンシャル)のある人材を採用するポテンシャル採用に取り組む企業や医院も増えているんです。
ポテンシャル採用のメリット
ポテンシャル採用にはどのようなメリットがあるのでしょうか。3つのメリットをご紹介します。
優秀な人材を確保できる
ポテンシャル採用の大きなメリットの一つとして「優秀な人材の確保」が挙げられます。
実績や評価に捉われず選考を行うため、今までに出会うことのなかった優秀な人材に出会える可性があります。
SRPができる人材の確保にも期待ができ、将来あなたの医院で管理職やマネジメント業務で活躍できる歯科衛生士を獲得できるかもしれません。
研修コストが削減できる
新卒として採用した場合、ビジネスマナーや基本的なスキルなどを一から教育する必要があります。ですがポテンシャル採用は社会人経験のある人材も集まるため、必要最低限のビジネスマナーやスキルを身につけている場合も。
医院での業務やSRPの他にも研修・教育が必要であれば、一人前の歯科衛生士になるまで時間がかかってしまいますよね。
ビジネスマナーなどの研修回数を減らすことができれば、費用や時間を削減することができます。
ポテンシャル採用のデメリット
ポテンシャル採用を取り入れる際の注意点をご紹介します。
教育・育成コスト
実績や経験を問わないのがポテンシャル採用。そのため必然的に「未経験者(SRP含め)」を採用することになります。
そのため入職後すぐの活躍は見込めないことも多く、活躍するまで人材育成のためのコストが掛かってしまいます。
ポテンシャルが開花しない可能性
ポテンシャル採用を行ったといえど、必ずしもSRPができたり、高度な治療処置ができるなどの理想的な人材には成長しない可能性もあります。
面接や履歴書・職務経歴書だけでは応募者を完全に見極めることは難しいでしょう。理想通りに成長しない可能性があることも理解した上で、採用を行う必要があります。
ポテンシャル採用を成功させるためのコツ
ポテンシャル採用を成功させるため押さえておくべきポイントを3つご紹介します。
「どんなDHを求めているか」を具体的に言語化
ポテンシャル採用を行う上で一番重要なのは「求める人物像を明確にすること」です。
採用基準が曖昧なままなんとなくで採用をしてしまっても、時間もお金も無駄にしてしまうだけ。
SRPができるようになるためにはどんな素質が必要かを洗い出しましょう。
「診査を適切に行えるか」「患者様とのコミュニケーションを苦手に感じないか」など、必要事項をきちんと言語化し、採用基準を設けることが大切です。
SNS、HPでの情報発信
ポテンシャル採用でターゲットとなるのは主に20~30代。
この年代の求職者は、主にWebやSNSを使って採用情報を集める傾向にあります。企業HPや採用HPを充実させ、歯科衛生士を募集をしていること、どんな人材を求めているのかを発信しましょう。
良い人材を見極めるための面接質問例3選
応募してきた人材をどのように見極めればいいのか、難しいですよね。ミスマッチや早期離職を防ぐためにも、選考の際の質問を工夫しましょう。以下のような例を使い、質問を掘り下げていきましょう。
当院の治療や処置に活かせる強みを持っていますか?
繊細さや注意深さなど、治療にあたる上で必要な強みや性格を持っている方だとより良いですよね。
あなたの短所について教えてください。
人とのコミュニケーションが苦手などあれば、SRPだけでなく歯科衛生士としての業務もストレスに感じてしまう場合があります。入職後にミスマッチが起こらないよう、歯科衛生士としての適性を判断することが大切です。
前職での退職理由を教えてください。
働いた経験がある方には退職理由を聞いてください。自院の理念や取り組みとミスマッチが無いかを確認しましょう。
ミスマッチを減らすための面接質問例はこちらの記事も参考にしてください。
募集要項で記載すべき項目3つ
ポテンシャル採用では主に若手の人材を募集します。 新卒の方、SRPの経験がない方、資格を持っているがまだ歯科医院での勤務経験がない方…そういった方のためにも研修や教育制度を詳しく記載するといいでしょう。
応募資格
- 大学、短大、専門卒業見込みの方または、応募時に既卒3年以内の方
- 経歴にかかわらず、歯科衛生士資格をお持ちの方で28歳以下の方であれば応募可能です
研修
- OJTサポート、フォローアップ研修、外部研修、教育に関するマニュアル完備など
こんな方はご応募ください
- スキル・経験はないが、SRP(歯周病治療処置)に興味があるという方
- 繊細な作業が得意、患者様とのコミュニケーションが好きだという方
さらに詳しい募集要項の書き方はこちらの記事でもご紹介しています。
まとめ
いかがでしたか?
ポテンシャル採用はあまり聞き馴染みのない言葉ですが、ご紹介したポイントを踏まえ採用活動を行っていただくと、貴院にマッチした歯科衛生士を採用できるようになります。
採用活動を行う前にしっかりと新人教育の体制を整えておくことで、 SRPができない歯科衛生士でも戦力として活躍することが出来るでしょう。
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